(原題:Snowpiercer )変な映画だ。原作はフランスのグラフィックノベルらしいが、こういうネタを取り上げたこと自体が、そもそも常軌を逸していると思う。どこでどう盛り上がれば良いのか分からないままエンドマークを迎え、映画として存在価値があるのか疑わしい。
地球温暖化を阻止するために散布された薬剤の副作用により、世界中の気温が急降下。ついには全球凍結に至る。ほとんどの生命が失われたが、凍り付いた大地を一年掛けて世界一周する列車“スノーピアサー”に乗り込むことが出来た人々だけが、かろうじて生き残る。
ところが列車内は完全な階級社会が成立しており、列車の前方は一握りの上流階級が支配し、昔と変わらない生活を送る一方、後方車両には貧しい人々がひしめき合っていた。そういう状態が17年も続いたが、下層階級のリーダーであるカーティスは義勇軍を募り、自由を求めて前方車両に向かって攻め込んでゆく。
例によって、突っ込みどころが満載だ。この列車の動力は一体何なのか。保線部門も無しで列車を正常走行させられるのか。四六時中列車に揺られて、乗り物酔いしないのだろうか(笑)。だいたいどうして列車なのか。巨大な建物とか地下都市とか、そういうものじゃダメだったのか。とにかく、この題材で上映時間が2時間を超えちゃダメだろう。
もちろん、それらの欠点をカバーしてしまえるほどストーリーが面白ければ文句は無いのだが、残念ながらそうではない。主人公達がいくら反乱を起こしても、しょせんは“列車の中の話”に過ぎないのだ。たとえ勝利を収めても、先が見えない状況には変わりない。それを知ってか終盤にはちゃぶ台をひっくり返したような展開が待っているが、それで何か解決するのかというと、まったくそうではないのだ。
監督は韓国のポン・ジュノだが、彼の代表作と言われる「殺人の追憶」や「母なる証明」と同様、ここでも無理筋のプロットを積み上げた挙げ句にドラマが瓦解している。要となるはずのSFXの出来も、水準には達していない。
ただし、キャストは多彩だ。カーティス役のクリス・エバンスは大したことはないが、ティルダ・スウィントンやオクタビア・スペンサー、ジェイミー・ベル、エド・ハリス、ジョン・ハートといった脇の顔ぶれが個性を発揮している。特に憎々しい悪役を賑やかに演じるスウィントンは儲け役だ。韓国映画界からはソン・ガンホが選出されているが、傍若無人のゴーマンさが光る。常人ならばとっくの昔に死んでいるような厄災に見舞われても、ケロリとしているのはアッパレかもしれない。なお、マルコ・ベルトラミの音楽は手堅い出来だ。