(原題:Crimes and Misdemeanors )89年作品。ウディ・アレンの監督作で彼自身が出演もしている。でもどちらかというと、彼はワキ役だ。これは主演者として画面のまん中にあの顔が出て来るのはイヤだけど、彼が出ていた方が話がコミカルになって良いという映画ファンの意見をうまく取り入れた賢い選択だと思う。
映画は二つのストーリーが並行して描かれる。一つ目がマーティン・ランドー扮する高名な眼科医ジュダの話。もう一つがドキュメンタリー番組を作っているクリフという男のエピソードで、これがアレンが演じている。でも、どちらかというとジュダの話がメインだ。
二人は一応面識があるんだけど、あまりストーリー的にからまない。ジュダは社会的名声はあるが、実は長い間妻以外の女とつき合っていて、その女が煮えきらない彼に対して嫌がらせを始め、さらに彼の弱みも握っているから別れるに別れられない。
一方クリフは妻からとっくにアイソをつかされていて、離婚寸前。だけど彼は反省の色がなく、助手の女性(ミア・ファーロー)にちょっかいを出している。彼女は何とも思ってないのだが、クリフは彼女も自分が好きだと思い込んでいる。いかにもアレンのキャラクターにぴったりの自分中心型の人間だ(笑)。
ジュダは悩んだ挙げ句に彼はヤクザな弟にそのことを打ち明ける。と、弟は殺し屋を雇ってさっさと女を始末してしまう。そこでジュダはショックを受ける。何しろ彼は熱心なユダヤ教徒で“神はいつも見ている”ということを信じているから、いつか天罰が下ると思って、それからはメシもノドに通らない毎日だ。
クリフはイヤな性格の売れっ子プロデューサーを主役においたドキュメンタリー番組を作ることになるが、くだんの女性がそのプロデューサーに好意を持っていることを知って、トコトン主役をコケにしまくった番組を作って彼の評判を落とそうとするものの、結局彼女をそいつに取られてしまう。でもやっぱり自分の負けを認めない。
終盤、クリフとジュダがパーティで出くわす場面がある。片や人を殺したものの、死ぬほど悩んだ男。片やケチな小細工をして彼女に逃げられても、全く反省の色がない男。この対比がなんとも言えずシビアだ。ここでタイトルの「重罪と軽罪」が効いてくる。罪深いことにかけては二人とも一緒なのだが、人間の持つ二面性をよく描けている。
カメラワーク、色彩、言うことない。当時のアレンは脂が乗っていて、この作品をはじめ、面白く考えさせられる良質の作品をコンスタントに発表していた。しかも現在でも監督のヴォルテージはそれほど落ちていないことを考え合わせると、やはり不世出の作家であることを再認識する。