(原題:燃冬 THE BREAKING ICE)手練れの映画ファンならば、ジム・ジャームッシュ監督の代表作「ストレンジャー・ザン・パラダイス」(84年)との共通性を見出すことだろう。もっとも、本作はあの映画のクォリティの高さには及ばないが、それでも十分な訴求力を持ち合わせていると思う。観て損はしない中国=シンガポール合作だ。
吉林省延吉市は、中国と北朝鮮との国境に位置する街である。友人の結婚式に出席するため、上海から冬の延吉にやって来た青年ハオフォンは、翌朝の帰路のフライトまでの時間を利用して観光バスツアーに参加する。ところが途中でスマートフォンを紛失してしまい、女性観光ガイドのナナは責任を感じて彼をその晩食事に誘う。ナナの男友達のシャオも加わって夜遅くまで盛り上がるが、翌朝ハオフォンは寝坊して飛行機に乗り損ねる。こうなったのも何かの縁だと割り切った彼は、シャオの提案による3人での国境近辺でのバイクツーリングに出掛ける。
ハオフォンはエリートサラリーマンなのだが、激務でメンタルが限界に達しようとしており、定期的にカウンセリングを受けている。ナナは以前はフィギュアスケートの選手だったが、足の怪我により断念。今では観光ガイドで糊口を凌いでいる。シャオは叔母の飲食店で働いており、取り敢えずは生活に不満は無いようなのだが、ハオフォンとの出会いにより何か別の生き方があるのではないかと思い始める。
彼らの屈託は、けっこう普遍的なものではないだろうか。もちろん挫折したことのない者や、そもそも能動的に人生を送っていない人間には関係の無い話かもしれない。だが、そういうのは多数派ではないだろう。それぞれが心の奥に(意識的・無意識的に関わらず)ため込んだ懊悩は、他者と触れ合うことによって顕在化したりもする。それがここではよく表現されている。
飲んで酔いつぶれたり、バイクの3人乗りで北朝鮮との国境付近を走り回ったり、書店で誰が一番分厚い本を万引き(未遂)できるかといったようなゲームをしたりと、彼らは若者らしいアホな振る舞いばかりやっているが、それでもコミュニケーションが自己の内面を照射するという本筋をトレースしている。別にドラマティックな出来事があるわけではないが、作品の好感度が高いのは人間関係の在り方をマジメに捉えているからだろう。
彼らが足を運ぶ白頭山の近辺をはじめとするこの地方の冬の風景は、まさしく「ストレンジャー・ザン・パラダイス」での主人公3人の“冬の旅”を想起させる。ユー・ジンピンのカメラによるモノクロに近い凍り付いた風景は、とても心惹かれる。アンソニー・チェンの演出は、起伏が乏しいと思われるストーリーラインを冗長にならずラストまで運んでいて好感が持てる。
ハオフォン役のリウ・ハオランにシャオを演じたチュー・チューシャオも悪くないのだが、最も印象的だったのはナナに扮したチョウ・ドンユイだ。デレク・ツァン監督の秀作「少年の君」(2019年)で女子高生を演じた頃に比べると随分と大人っぽくなったと思ったら、彼女はあの映画の出演時にはすでに二十歳をとうに過ぎていたのだ。容貌のせいもあるのだが、パフォーマンスの力によって役を引き寄せるのは流石だと思った。
吉林省延吉市は、中国と北朝鮮との国境に位置する街である。友人の結婚式に出席するため、上海から冬の延吉にやって来た青年ハオフォンは、翌朝の帰路のフライトまでの時間を利用して観光バスツアーに参加する。ところが途中でスマートフォンを紛失してしまい、女性観光ガイドのナナは責任を感じて彼をその晩食事に誘う。ナナの男友達のシャオも加わって夜遅くまで盛り上がるが、翌朝ハオフォンは寝坊して飛行機に乗り損ねる。こうなったのも何かの縁だと割り切った彼は、シャオの提案による3人での国境近辺でのバイクツーリングに出掛ける。
ハオフォンはエリートサラリーマンなのだが、激務でメンタルが限界に達しようとしており、定期的にカウンセリングを受けている。ナナは以前はフィギュアスケートの選手だったが、足の怪我により断念。今では観光ガイドで糊口を凌いでいる。シャオは叔母の飲食店で働いており、取り敢えずは生活に不満は無いようなのだが、ハオフォンとの出会いにより何か別の生き方があるのではないかと思い始める。
彼らの屈託は、けっこう普遍的なものではないだろうか。もちろん挫折したことのない者や、そもそも能動的に人生を送っていない人間には関係の無い話かもしれない。だが、そういうのは多数派ではないだろう。それぞれが心の奥に(意識的・無意識的に関わらず)ため込んだ懊悩は、他者と触れ合うことによって顕在化したりもする。それがここではよく表現されている。
飲んで酔いつぶれたり、バイクの3人乗りで北朝鮮との国境付近を走り回ったり、書店で誰が一番分厚い本を万引き(未遂)できるかといったようなゲームをしたりと、彼らは若者らしいアホな振る舞いばかりやっているが、それでもコミュニケーションが自己の内面を照射するという本筋をトレースしている。別にドラマティックな出来事があるわけではないが、作品の好感度が高いのは人間関係の在り方をマジメに捉えているからだろう。
彼らが足を運ぶ白頭山の近辺をはじめとするこの地方の冬の風景は、まさしく「ストレンジャー・ザン・パラダイス」での主人公3人の“冬の旅”を想起させる。ユー・ジンピンのカメラによるモノクロに近い凍り付いた風景は、とても心惹かれる。アンソニー・チェンの演出は、起伏が乏しいと思われるストーリーラインを冗長にならずラストまで運んでいて好感が持てる。
ハオフォン役のリウ・ハオランにシャオを演じたチュー・チューシャオも悪くないのだが、最も印象的だったのはナナに扮したチョウ・ドンユイだ。デレク・ツァン監督の秀作「少年の君」(2019年)で女子高生を演じた頃に比べると随分と大人っぽくなったと思ったら、彼女はあの映画の出演時にはすでに二十歳をとうに過ぎていたのだ。容貌のせいもあるのだが、パフォーマンスの力によって役を引き寄せるのは流石だと思った。