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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「愛に乱暴」

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 実に胸糞が悪くなる映画だ。断っておくけど、この“胸糞”という言い方は最近は時に褒め言葉として使われるようなので、ここではそう表現させてもらった。とにかくインモラルなモチーフが釣瓶打ちで、ここまで追い込むかと半ば感心しながら鑑賞を終えた次第。広く奨められるシャシンでは決してないが、求心力の高さは認めざるを得ない。

 神奈川県綾瀬市に住む初瀬桃子は、夫の真守と2人で真守の実家の敷地内に建つ離れで暮らしている。母屋には義母の照子が1人いるだけだが、桃子は何かとプレッシャーを感じていた。そんな折、近所のゴミ捨て場で不審火が相次いだり、桃子が主宰する石鹸教室の行く末が怪しくなったりと、不穏な出来事が相次ぐ。そしてついに、真守の浮気が発覚して事態は風雲急を告げる。吉田修一の同名小説の映画化だ。



 とにかく、主人公が遭遇する災難の数々には呆れつつも納得(?)してしまう。何しろ周囲の人間の大半が、桃子に(意識的か無意識的かに関わらず)悪意を持っているのだ。取りあえず“別居”を選択した義母は、ヒロインに気を遣っているようでいて、微妙な屈託を隠せない。桃子は以前は会社勤めをしていて、結婚を機に退職しているのだが、くだんの石鹸教室は元の職場が便宜を図って実現したものらしい。ところがその古巣の会社は、桃子のことを何とも思っていなかったことが発覚する。真守の不倫相手の若い女は、桃子に対して申し訳ないようなポーズを取るものの、本当は邪魔な存在でしかないのだ。

 ならば桃子は観る者の同情を誘うような健気な人妻なのかというと、そうでもないのが嫌らしい。彼女は“ある秘密”を持ったまま結婚したのだが、それが夫と義母にとって彼女を疎ましく思う絶好のネタになっている。なお、桃子は床下に住みついている猫のことを気に掛けているようだが、その“真相”が明らかになる後半の展開は胸糞そのものだ。

 さらに、終盤で真守が独白する“浮気の理由”とやらは、まさに身も蓋もないハナシで身震いするほど。結局、映画の中でマトモだったのは一見本編と関係のなさそうな脇の人物だけだったというオチは、後ろ向きの興趣が溢れている。森ガキ侑大の演出は「さんかく窓の外側は夜」(2021年)の頃より格段の進歩を見せ、最後まで緊張を途切れさせない。

 主演の江口のりこは快演で、彼女の代表作になることは必至だ。真守に扮する小泉孝太郎をはじめ、風吹ジュンに馬場ふみか、青木柚、斉藤陽一郎など全員が及第点に達するパフォーマンスを披露している。岩代太郎の音楽も良い。

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