(原題:LES CHORISTES )2004年フランス=スイス合作。今では世界的な名声を得た人物が自分自身の少年時代を回想するという導入部は、ジュゼッペ・トルナトーレ監督の「ニュー・シネマ・パラダイス」(88年)と似ているが、あれと比べればクサい部分は少なく、随分と平易な作劇である。第77回米アカデミー賞の外国語映画賞と主題歌賞にノミネートもされており、たぶん誰が観ても良さが分かる佳作だ。
1949年のフランス。失業中だった音楽教師クレマン・マチューは、ピュイドドーム県の田舎町にある寄宿舎“池の底”に職を得ることが出来た。そこは孤児や不良少年ばかりが集められており、しかも校長は平気で体罰をおこなう人間で、学校全体の雰囲気は殺伐としたものだった。マチューは学校の空気を変えるべく、合唱団を結成して子供たちに歌う喜びを教えようとする。そんな中、マチューは学校一の問題児であるピエール・モランジュが素晴らしい歌声の持ち主であることを知る。
少年たちは誰もが判で押したようにひねくれていて、校長はこれまた判で押したように高圧的。ジェラール・ジュニョ扮する音楽教師も“ほどよく熱血漢”である(笑)。実に分かりやすい作劇だが、いたずらに変化球を狙って結果的にハズしてしまうよりはマシで、賢明な判断かと思う。
エピソードの積み重ね方は無理がなく、監督クリストフ・バラティエの職人ぶりが発揮されている(聞けば本作が初長編とのことで驚いた)。こういうケレンのない展開の中にいくつか泣かせどころを配置するというスタイルは一番俗受けするのだろう。事実、この映画は本国で大ヒットした。さらに教え子の母親への“淡い恋”に一時身を焦がしつつも、音楽教師としての本分を忘れず生涯を送った主人公の矜持も強い印象を残す。
ブリュノ・クーレとクリストフ・バラティエによる音楽は万全で、子供たちのパフォーマンスも申し分ない。特にピエールに扮したジャン=バティスト・モニエはリヨンのサン・マルク少年少女合唱団のリードヴォーカリストであり、惚れ惚れするような美声を披露している。なお、冒頭での成長したピエールを演じるのが奇しくも「ニュー・シネマ・パラダイス」にも出ていたジャック・ペランで、製作にも名を連ねているというのは面白い。