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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「雨月物語」

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 1953年大映作品。日本映画史上にその名を刻む巨匠である溝口健二の代表作と呼ばれているシャシンだが、今回私は福岡市総合図書館にある映像ホール“シネラ”での特集上映にて、初めてスクリーンで観ることが出来た。正直な感想としては、やっぱり“古い”と思う。画質が荒いのは製作年度を考えれば仕方が無いとは思うが、展開自体が悠長というか、じっくり描こうとして時制面で納得出来ない点が出てきている。では観る価値はあまり無いのかというと断じてそうではなく、美術やキャストの存在感には目覚ましいものがある。

 戦国時代、琵琶湖北岸の村に住む陶工の源十郎は、商売のために対岸の都へ義弟の藤兵衛と共に渡る。そこで源十郎は若狭と名乗る美女から陶器の注文を受け、彼女の屋敷を訪れる。思わぬ歓待と追加注文を受けた彼は、やがて若狭にゾッコンになってゆく。一方、侍として立身出世を夢見る藤兵衛は、策を弄して羽柴勢に紛れ込んでいた。



 上田秋成の読本に収録された数編の物語を元に、川口松太郎と依田義賢が脚色したものだが、あまり上手くいっているとは思えない。源十郎と若狭とのエピソードは数日あるいは長くて数週間の物語という印象しかないのに対し、藤兵衛が侍として成り上がり、やがて手柄を立てて小隊長みたいな身分になるまでには数か月は要するのではないか。

 しかもこの間に藤兵衛の妻の阿浜は野武士に乱暴された挙げ句、売春婦に成り果てるが遊郭では売れっ子の一人になるという、短いスパンでは描ききれないドラマも“同時進行”しているのだ。これらを平行して並べるのは無理筋だ。

 しかしながら、宮川一夫のカメラワークは万全で、琵琶湖を渡るシーンや若狭の屋敷の佇まいには感心するしかない。キャストでは何と言っても若狭に扮する京マチ子が最高だ。この妖艶さとヤバさは只事ではなく、観ているこちらも引き込まれた。源十郎を演じる森雅之をはじめ、小沢栄太郎に水戸光子、青山杉作など面子は粒ぞろい。

 そして、源十郎の妻の宮木に扮した田中絹代がもたらす柔らかい空気感が場を盛り上げている。終盤は若狭ではなく宮木を中心としたシークエンスで締めたというのは、溝口健二が狙っていたテーマを如実に示すものであろう。視点が常に高い次元を指向していた黒澤明とは、一線を画していると思う。

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