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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「戦雲(いくさふむ)」

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 題材だけで判断すると、これは左傾イデオロギーが横溢したプロパガンダ映画なのかという印象を受けるかもしれない。しかし、実際に接してみると右だの左だのという小賢しい“神学論争”とは一線を画した、真に地に足が付いたドキュメンタリー映画の力作であることが分かる。その意味では観る価値は大いにある。

 日米両政府の主導のもと、沖縄は重要な軍事拠点と位置付けられ、自衛隊ミサイル部隊の配備や弾薬庫の大増設などが断行されてきた。2022年には“キーン・ソード23”なる日米共同統合演習までも実施され、南西諸島を主戦場に想定した防衛計画が練られていることが明らかになった。しかし、この動きは沖縄県民のコンセンサスを得たものではないのだ。日本の安全保障という建前ながら、住民たちの利益には必ずしも繋がっていない。



 映画は地元住民らの日常や、豊かな自然を丹念に写し取る。特に、与那国島のハーリー船のレースの盛り上がりや、カジキとの格闘に命を賭ける老漁師の生き方などはインパクトが大きい。だが、なし崩し的に実行される島々の軍事要塞化の波が、住民たちの生活に暗い影を落としている。

 断っておくが、私は“安保ハンターイ!”などという小児的な左巻きシュプレヒコールに与するものではない。アメリカと共同しての安全保障体制の確立は重要かと思う。しかし、問題はその拠点がどうして沖縄なのかだ。右巻きの連中はよく“沖縄は軍事的に重要な地点であるから、基地が集中するのは当然だ”みたいな物言いをするようだが、ならば他の地域は軍事拠点ではないのか。

 たとえば冷戦期に、アメリカは北海道や福岡から基地を撤収しているが、これをどう説明するのだろうか。要するに、基地のロケーション選定なんてのは日米の政治的決着によるものであり、真っ当な軍事的必然性とは距離を置いたものなのだ。もちろん、現地住民のことを顧みる余地は無い。

 監督の三上智恵はこのような現実を冷徹に提示する。しかも、沖縄とは関係の無い所謂“左傾活動家”を登場させることもせず、地元取材の立場から逸脱して“作家性”を強調することもない。極めて賢明なスタンスを取っている。それにしても、台湾有事を持ち出せば異論を許さない風潮が創出され、同時に負担を沖縄に押し付ける事なかれ主義が罷り通ってしまう、安全保障の何たるかを考慮しない空気が蔓延している現実は憂うべきことだ。たとえば辺野古をめぐる状況などを見てみると、そのことを痛感する。

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