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フェリクス・J・パルマ「時の地図」

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 SF小説の巨匠H・G・ウェルズが主人公になり、19世紀末のロンドンで“活躍”するという伝奇ロマン。これは本当に面白かった。ハッタリめいた設定と大仰な語り口を前面に出しているが、文体と展開に“愛嬌”があり、各キャラクターも立っていて実に楽しい。スペインの俊英パルマによる痛快編だ。

 1896年のロンドンには、西暦2000年にタイムトラベル出来るという時間旅行社が営業しており、大変な人気を集めていた。恋人を切り裂きジャックに惨殺された失意の若者アンドリューは、時間旅行社を訪ねて惨劇を回避しようと過去に行けるように掛け合うが、残念ながら未来にしか行けないという。次に彼は「タイムマシン」を発表したウェルズの助力を得ようとするのだった。一方、上流階級の娘クレアは、未来への時間旅行に参加するが、そこで出会った未来世界の英雄に恋心を抱いてしまう。



 三部構成から成っているが、第一部でこの時間旅行社なるものはインチキであると早々に明かされる。ならばこれはSFではないのかというと、終盤になって急に空想科学的な仕掛けが出てくる。しかもそれに全く違和感を覚えないような伏線が、一部と二部に巧妙に張り巡らされている。

 ストーリーが“読める”部分と“読めない”パートが巧みに配置され、そのテクニックには唸らされるばかりだ。また、平凡な市井の人々が時間旅行に対して抱く、切ない期待と興味とが上手く掬い取られているのも良い。

 ウェルズの他にもヘンリー・ジェイムズやブラム・ストーカーといった当時の人気作家が登場。作者はイギリス人ではないが、ヴィクトリア朝末期の時代の雰囲気をいかにも“それらしく”出しているのにも感心した。幕切れは鮮やかで読後感も最良。読まないと損をする。

 なお、パルマは本作の続編として同じウェルズの著作である「宇宙戦争」をモチーフにした「宙(そら)の地図」を上梓しているが、こちらはあまり面白くない。「透明人間」をネタにしているという第三弾に期待したいところだ。

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