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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「首」

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 北野武は本作の企画立案と脚本の作成に約30年を費やしたというが、だいたい“構想○○年! 製作費○○億円!”という謳い文句を前面に押し出した映画って大したことがないケースが多い。要するに、それしかセールスポイントが無いってことだろう。たけし御大のこの新作も、残念ながらその類いかと思う。基本的に、やってることは「アウトレイジ」シリーズとほぼ同じで、背景が時代劇に変わっただけだ。

 1578年、天下統一を目指していた織田信長の腹心であった荒木村重が謀反を起こして姿を消す。怒った信長は秀吉や光秀ら家臣たちに村重討伐の命を下す。その成功報酬は自身の跡目相続だ。秀吉は弟の秀長や黒田官兵衛らと相談すると共に、元忍者の曽呂利新左衛門に村重の探索を命じる。一方、丹波国篠山に住む農民の難波茂助は、百姓の身分から大名にまでのし上がった秀吉に憧れており、彼の軍勢に勝手に紛れ込む。



 ひょっとして作者は“現代を舞台にしたバイオレンス物ならば制約が大きいが、ほぼ無法地帯である戦国時代に場を移せば好き勝手やれる”とでも思ったのかもしれない。しかし、歴史物に素材を求めるのならば、そこには別の大きな制約が入ってくる。それは“史実”というシロモノだ。もちろん、歴史的事実を無視してフィクションをデッチあげる手法もあり得る。ただそれには、純然たる作り物だという了解が観る者との間に成立しておかなければならない。この点、本作は不十分と言わざるを得ない。

 確かに戦国武将たちは抜け目のない連中ばかりだっただろう。だが、いやしくも天下を狙おうという者が、情け容赦のない冷酷非道一辺倒の価値観しか持っていなかったら、領民も含めた周囲の人間は誰も付いていかないのだ。たとえば本作で描かれる信長は、エキセントリックで見境の無い外道である。けれども彼は戦国武将としては優しさや気遣いをも持ち合わせていたことが分かっている。そんな懐の大きな一面が無ければ、天下布武など望めない。その意味では、この映画の信長像は古い。

 さらには、秀吉も家康も年を取り過ぎている。2人とも信長よりも若いはずなのに、あれではただの老人ではないか。また、曽呂利新左衛門が忍びの者だったというのもウソで、彼の“末路”もデッチ上げだ。まあ、それでも面白ければ許せるのだが、これがちっとも盛り上がらない。全体的に、セリフは現代風だし笑えないコントが挿入されるしで、バランスが悪い。残虐描写と不自然な同性愛ネタが遠慮会釈無く出てくるのもテンションが下がる。

 秀吉を演じるビートたけしをはじめ、西島秀俊、加瀬亮、中村獅童、木村祐一、遠藤憲一、勝村政信、寺島進、桐谷健太、浅野忠信、大森南朋、小林薫、岸部一徳など、キャストはけっこう豪華。しかし、結果として作者の顔の広さを示すだけに留まっているようで愉快になれない。カンヌ国際映画祭ではウケたらしいが、これは単にエキゾチシズムを前面に出したせいなのかと思ってしまった。

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