Quantcast
Channel: 元・副会長のCinema Days
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2422

「燃えあがる女性記者たち」

$
0
0
 (原題:WRITING WITH FIRE )今まで知ることも無かった事実を紹介してくれることがドキュメンタリー映画の特徴の一つだが、本作においてはその真実が殊の外重い。いや、本当は誰しもそのことに薄々気付いてはいるのだ。単にそれを直視せず、あるいは“仕方がないことだ”としてスルーしている。そこを敢えて取り上げることこそ、映画人としての矜持であるはずだ。その意味では、本作の存在価値は高い。

 インド北部のウッタル・プラデーシュ州に拠点を置くネット媒体の新聞社カバル・ラハリヤは、被差別カーストの女性たちによって立ち上げられている。取材対象は、この地に暗い影を落とす貧困や階層の実態、そして差別による社会の分断などである。女性記者たちは家族や周囲の者らの反対に遭いながらも、果敢に問題に向き合っていく。



 インドは多大な人口を抱え、今や世界第5位の経済大国であり、今後も成長が見込まれている。しかし、この国は先進国ではない。言語は統一されておらず、社会的格差は(宗教的要因もあり)確定されている。ヒンドゥー教徒とイスラム信者の確執も深刻だ。そんな中、本作で描かれるカースト外の“不可触民”として差別を受けるダリトの女性たちが嘗める辛酸は筆舌に尽くしがたいものだろう。

 特に、プレッシャーに耐え切れず主要メンバーのひとりが結婚退職を余儀なくされるシークエンスは痛切だ(後に復職したという)。それでも、カバル・ラハリヤの記者は前を向くことをやめない。購読者は着実に増え、時にそれは当局側を動かし、地域の治安やインフラの整備に貢献する。やはりジャーナリズムの力は大したものだと思わざるを得ない。また、初の海外出張でスリランカを訪れた記者の一人が、海辺で“素”の表情でリラックスしている様子を挿入するなど、等身大のキャラクターとして捉えている箇所があるのも好印象だ。

 リントゥ・トーマスとスシュミト・ゴーシュによる演出は、いくらでも煽情的に扱えるネタを扱いながらもニュートラルな姿勢を崩さない。もちろん、絶対的な中道というものはあり得ないが、それを指向すること自体が重要なのだ。彼らにとってこれが長編第一作だが、サンダンス映画祭におけるダブル受賞をはじめ、200以上の映画祭で上映されており、米アカデミー賞ドキュメンタリー部門の候補にもなった。今後も注目したい人材だ。

Viewing all articles
Browse latest Browse all 2422

Trending Articles