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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「ゴジラ-1.0」

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 これは面白い。ただし観る前は“今さらゴジラでもないだろう”という思いが強かった。庵野秀明らの手による「シン・ゴジラ」(2016年)が評価を得ていて、ハリウッドでもゴジラ映画が作られている昨今、国内の映画でゴジラをまた登場させるには「シン・ゴジラ」の続編ぐらいしか考えられない。ところが、本作は思わぬ方向からのアプローチが成されていて、しかもそれが上手くいっている。見事な仕事ぶりと言うしかない。

 昭和20年の終戦間近、特攻から逃げ出して小笠原諸島の大戸島の守備隊基地に着陸した敷島浩一。そこで遭遇したものは、大きな恐竜のような生物だった。そのモンスターのために守備隊は敷島と整備兵の橘宗作を除いて全滅。戦争が終わって復員した敷島だったが、実家があった東京の下町は焼け野原になり両親も空襲の犠牲になっていた。



 彼は闇市で親を失った大石典子と、彼女が見知らぬ他人から託されたという赤ん坊の明子に出会い、成り行きで一緒に暮らすことになる。数年後、敷島は機雷の撤去作業という職を得て何とか生活も安定してきた矢先、原爆実験により巨大化したくだんのモンスターが東京に上陸。小笠原の伝説で呉爾羅(ゴジラ)と呼ばれるその怪獣に、敷島は再び対峙することになる。

 ゴジラがスクリーンに初めて登場した本多猪四郎監督作品が公開されたのが昭和29年。この映画はそれより前の時代設定なので“-1.0”というタイトルが付いているのだが、その着眼点自体が非凡だ。米軍統治下にある日本を舞台にしており、ソ連との関係性でアメリカが直接手を出すわけにはいかず、自衛隊はまだ存在していない。だから“民間ベース”で対処するしかないという設定には唸ってしまう。そしてそのミッションに参加するのは、敷島をはじめ先の戦争で大いなる屈託を抱えることになった元軍閥の人間が中心。彼らは、真にあの戦争に決着を付けるために捨て身の戦いに挑む。

 そして何より、この映画はリアリティ路線(≒オタク趣味)に振り切ろうとした「シン・ゴジラ」とは別のコンセプトで作られていることが天晴れだ。とにかく、徹底してエンタテインメントの王道を歩もうとしている。しかも、ヘンに若年層に阿ったり楽屋落ちのネタを多用することなく、あらゆる観客層にアピールできるような能動的な姿勢を崩さない。

 もちろん、ゴジラがあえて東京に上陸した理由が説明不足だったり、銀座付近を荒らしてから一度海に戻った事情も分からないなど、細部を突けばアラも出てくる。しかし、それでもトータルとして本作の筋書きは良く出来ており、見せ場は効果的に展開される。各キャラクターも十分“立って”いて、誰もがやっと復興し始めた日本を再び壊滅させてたまるものかという気迫に満ちあふれている。

 演出担当の山崎貴は脚本も手掛けているが、彼は本当に良いシナリオを書くようになった。今後は日本映画の重鎮としての風格も出てきそうだ。ゴジラのデザインは秀逸で、特に放射能を吐く前に身体が光り出すあたりの仕掛けには感心するしない。また、重巡“高雄”や局地戦闘機“震電”が登場するのも感涙ものだ。

 主演の神木隆之介と浜辺美波は朝ドラでコンビを組んだだけあって、息はピッタリ。山田裕貴に吉岡秀隆、青木崇高、安藤サクラ、佐々木蔵之介など、脇のキャストも充実している。佐藤直紀が提供した音楽は申し分ないが、加えて伊福部昭の手によるあのテーマ曲が流れてくると、観る方もテンションが上がる。これは今年度のベストテンに入りそうだ。

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