(原題:EN CORPS)挫折を経験したバレリーナが別のスタイルのダンスと出会って再起するという、過去にも何度か取り上げられたような御膳立ての映画だが、思いのほか訴求力が高い。ただし、各キャラクターの内面はさほど掘り下げられていない。中身よりも外観を重視した作品で、そのエクステリアに映画全体を引っ張るほどのパワーがあるということだ。
パリ・オペラ座バレエ団で研鑽を積むエリーズは、その甲斐あってようやくエトワールの座が見えてきた。そんな中、彼女は公演の直前に恋人の浮気を目撃。動揺したエリーズは本番の舞台で足首を負傷してしまう。実は過去に何度か同じ箇所を痛めていて、医者は二度と踊れなくなる可能性があると告げる。失意の中で別の生き方を探すことになる彼女は、ブルターニュにあるコテージで料理の手伝いの仕事をしている際に、コンテンポラリーダンスのチームと出会う。バレエとは違った方法論を目の当たりにして、彼女は再び踊る喜びを見出していく。
監督のセドリック・クラピッシュはスタイリッシュな絵作りでは定評があるが、本作でも開巻早々に舞台上のバレエダンサーのバックに突如として先鋭的なサウンドを流し、しかもそれがサマになっているという離れ業を披露。劇中で少なからず挿入されるダンスシーンも、それぞれ非凡なアイデアで見せきっている。
正直言ってストーリーは紋切り型でヒロイン像もさほど新鮮味は無い。その代わり、周りのキャラクターは面白い顔ぶれが揃っている。特にエリーズを密かに憎からず思っているフィジカル・トレーナーのヤンの造型はケッ作で、思いが遂げられない時のリアクションは突き抜けている。主人公の友人がボーイフレンドから“可愛い”と言われたら逆ギレするシーンも秀逸。本人からすれば“可愛い”というのは自身を高みに置いた傲慢な物言いなのだそうだ。なるほど、そういう見方もある。
主人公を演じるマリオン・バルボーは、実際のパリ・オペラ座のバレエダンサーだ。容姿や身のこなし方は言うまでもないが、下半身から足の指先までしっかりと付いた筋肉の美しさには見とれてしまった。さすが本職は違う。コンテンポラリーダンス界の奇才ホフェッシュ・シェクターをはじめ、その筋のメンバーが本人役で出ているのも興味深い。アレクシ・カビルシーヌのカメラによるパリの街の点描と、ブルターニュ地方の風景の美しさは強く印象付けられる。