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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「シェアの法則」

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 実質的には東京都豊島区の“ご当地映画”であろう。だから話が紋切り型の教条的な流れになるのも仕方が無いと思われたが、これが一筋縄ではいかない構造を提示しており、感心するようなレベルに仕上がっている。体裁がどうあれ、練られた脚本と堅実な演出、そして達者な演技陣さえ揃っていれば見応えのあるシャシンに仕上がるのだ。

 豊島区の下町に住む税理士の春山秀夫と妻の喜代子は、自宅を改装してシェアハウスを運営している。とはいえ実際に切り盛りしているのは主に喜代子で、秀夫はこの施策に全面的に賛成しているわけではない。そんな中、喜代子が不慮の事故に遭い入院し、やむなく秀夫が代わりに管理人を務めることになった。仕事一辺倒の秀夫は、個性的な住民たちとはソリが合わない。だが、立場上さまざまな境遇の人たちと交流するうち、少しずつ心境の変化が生じてくる。



 シェアハウスの住民はキャバクラ勤務のシングルマザーや駆け出しの舞台俳優、中国出身のラブホテルの清掃員、売れない物書きである秀夫の甥など、訳ありの面子が揃っている。さらに春山夫婦の一人息子でレストラン経営者の隆志は同性愛者だ。昨今トレンドになっているダイバーシティを地で行くような設定で、ある意味図式的とも言えるのだが、各人の抱える懊悩が上手く表現されており、しかもそれぞれに映画のストーリーに沿った“結末”が用意されている。

 特に、中国から出稼ぎに来ているワン・チンは、実は密入国に近い境遇であることは印象的。今どき在日中国人の就労者など珍しくも無いのだが、実は当人は地方出身者で、渡航は許されていない。中国における都市と地方との歴然とした格差を日本映画が取り上げたのは初めてではないだろうか。シェアハウスの住民のOL役として出演もしている岩瀬顕子による脚本は、かなりよく練られている。なお、彼女は本作の元ネタになった同名舞台劇の台本も担当している。

 久万真路の演出は派手さは無いが、ケレンを廃した正攻法のもの。文句の付けようが無いほど堅実な仕事ぶりだ。秀夫に扮する小野武彦にとっては、何とこれが初の主演作映画になる。俳優生活57年目にして初の主役とかで、この融通が利かないが本当は情が厚い主人公を全力で演じている。

 喜代子役の宮崎美子をはじめ、貫地谷しほり、浅香航大、鷲尾真知子、大塚ヒロタ、小山萌子など、脇の面子も手堅い。都電荒川線や鬼子母神堂周辺、大鳥神社など、豊島区の下町風景も存分に捉えられている(まあ、私は同区は池袋界隈しか歩き回ったことは無いのだが ^^;)。

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