2023年11月よりNetflixより配信されたミステリー編。いかにもお手軽な雰囲気の外観だが、中身も限りなくライト級だ。正直言って、決して安くはない入場料を払って映画館で鑑賞したならば大いに不満が出てくると思う。だが、テレビの(ちょっと金の掛かった)2時間ドラマだと思って接すれば、あまり腹も立たない。少なくともヒマ潰しぐらいにはなるだろう。
豪華クルーズ船MSCべリッシマ号が、42日間のエーゲ海クルーズのため横浜を出航する。バトラーとして働く冲方優の前に、慌ただしく乗り込んできた女性客の盤若千弦が現れる。彼女の話では、お互いの恋人が密会しているのだという。近々結婚を考えていた優はショックを受けるが、そんな折、彼らは船内のプールで殺人事件が起こるのを目撃する。ところが死体は見つからず、優と千弦の他に現場を見ていたはずの幾人かは揃って“何も知らない”とシラを切る。この大事件が闇に葬られることを潔しとしない2人は、独自に調査を開始する。
謎解きの興趣は、ほとんど無い。消されたのが年配の金持ちの男で、狙いはまず財産だろうという予想は付くが、その段取りが大して芸が無い。優と千弦の素人探偵ぶりもラブコメ方面に寄り過ぎており、終盤には“意外な真相”とやらが明らかになるのだが、説明不足で辻褄が合っていない。そのままストーリー面では煮え切らないままエンドマークを迎える。
とはいえ、脚本を担当した坂元裕二の人脈の広さがモノを言っているのかどうか知らないが、キャスティングはけっこう豪華。クソ真面目なバトラーを楽しそうに演じる吉沢亮と、久々に可愛さ全開でファンを喜ばせる宮崎あおいのコンビは、年齢が合わないと思わせて実は好マッチングだ。吉田羊に菊地凛子、永山絢斗、泉澤祐希、蒔田彩珠、岡部たかし、岡山天音、近藤芳正、光石研、長谷川初範、高岡早紀、安田顕などなど、絵に描いたようなグランドホテル形式の配役が披露される。べリッシマ号の佇まいは確かに贅沢であり、ここはNetflix謹製らしいリッチさが味わえる。
瀧悠輔の演出は別にコメントするほどのものではないが、与えられた仕事はこなしていると思われる。それにしても、先のカンヌ国際映画祭で脚本賞を獲得している坂元裕二が、こういう軽量級のシナリオを手掛けるというのはまあ興味深い。しかしよく考えてみると、是枝裕和の「怪物」も実はライトな話だった。このレベルが彼の持ち味なのかもしれない。