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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「最終目的地」

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 (原題:The City of Your Final Destination)殊更ドラマティックな出来事もなく、展開は“ゆるい”とも感じるが、描かれるドラマは深いという玄妙な映画だ。ピーター・キャメロンの原作を得たジェイムズ・アイヴォリィ監督の、的確な仕事ぶりを久々に堪能できる。

 アメリカの大学院生オマーは、一冊の著作を残しただけで自殺してしまった作家のユルス・グントの伝記を執筆するため、遺族が住む南米ウルグアイに赴き、公認の許可を得ようとする。その屋敷には作家の未亡人、そして愛人とその娘が生活を営み、同一敷地内の別邸には作家の兄とそのゲイのパートナーが住んでいるという、奇妙な構成の面々が顔を揃えていた。

 オマーは歓迎されるわけでも疎まれるわけでもない微妙な空気の中に身を置くことになるが、不慮の事故で負傷してしまった彼を案じて本国から恋人が駆け付けてくるに及び、周囲に波紋が広がってくる。

 邸宅の主であったグントは去ってしまったが、いまだにその影響を受けた人々が彼の抜けた穴の周りで所在なく佇んでいる。そんな閉塞的な状況に外部の者が乗り込んでいって突破口を開くという、ある種図式的な筋書きながら、各登場人物の屈託を掘り下げることにより、見応えのある作品に仕上がっている。

 グントの不在に対して折り合いを付け、それぞれの“最終目的地”に向かっておずおずと歩き出す登場人物達。狂言回し的な存在かと思われたオマーもまた、自らの生き方を振り返り、新しい方向性を獲得するに至るのだ。これがハリウッド等の通俗的なシャシンならば泣かせどころや大仰なエピソードなんぞを挿入してくるところだが、さすがにアイヴォリィ監督の語り口は抑制されている。

 派手な見せ場の代わりに、グントの一族の出自や、それにまつわる宝石類などのモチーフを巧みに配備させる。エキゾティックな南米の風景と、時間が止まったようなグントの屋敷とのコントラストも鮮やかだ。「マルメロの陽光」などで知られる撮影監督ハビエル・アギーレサロベによるカメラワークが光る。

 グントの兄に扮するアンソニー・ホプキンス、グントの妻のローラ・リニー、愛人を演じるシャルロット・ゲンズブール、そして日本からこの地にたどり着いた男として真田広之に役が振られているが、いずれも渋味のある好演だ。大学院生役のオマー・メトワリーも悪くないのだが、周りが“濃い”ので幾分軽量級に見られるのは仕方が無いかもしれない。

 人間、新たな目的地を見出すのに“遅すぎる”ということはないのだろう。惰性に走りがちな日々を送っている者にとっては、含蓄のある作品であると言える。

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