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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「戦慄の絆」

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 (原題:Dead Ringers)88年作品。カナダの鬼才デイヴィッド・クローネンバーグ監督の代表作だ。真紅の画面をバックに、さまざまな手術器具(ことに婦人科専用器具)のデッサンやさらには人体解剖図などが配置されたオープニングからヤバさ全開である。

 同監督の「ザ・フライ」みたいな徹底したグロ描写の連続したフリーク映画ではなく、ホラー的クリーチャーも出てこないし、スプラッター的血しぶき場面も皆無である。だが、この映画の不気味さは凡百のホラー映画を完全に上回り、まさに格の違いを見せつけてくれる。

 双子の婦人科医師がいる(ジェレミー・アイアンズ2役)。幼い頃から一心同体で育ちともに名医として知られる兄弟はある日一人の女性(ジュヌビエーヴ・ビュジョルド)と出会う。彼女は彼らの患者だが、次第に彼女にひかれたプレイボーイの弟は彼女と付き合い始める。しかし、それから兄弟二人の関係は危機に瀕するようになり、破局にいたるラストが待ち受ける、というのが粗筋だが、これが単純に“一人の女性と双子の兄弟による三角関係の悲恋ドラマ”にはなっていないところがこの監督らしい。



 もちろん兄弟に同性愛的傾向があるという安易な発想ではない。自分たちはシャム双生児と同じく一つなのだと信じている(それは、妄想に近い)彼らだから、兄と弟が違った行動をとることによって生まれる自我の崩壊が深刻になってくる。

 つまり、たとえば「私」という人間は「あなた」とは違う。外見や育ちがどんなに似ていようと、それはあたりまえのことである。双子だって同じだ。この映画の兄弟は本来別個の人物として認知されるべきであった。しかし、たまたま双子で同じ職場で同じ仕事をしていたばかりにともに破滅への道を歩かざるを得なくなる。これは一種の悲劇だろう。

 弟が先にくだんの女性に手を出したと知った兄はノイローゼになる。ところが弟もドラッグに溺れるようになる。狂った兄は道具屋に奇怪な形の手術器具を作らせる。それは“シャム双生児を分離させる道具”で、ラストのショッキングな場面の重要な小道具になるのだが、人間の妄想の恐ろしさというものを見事に描き出したシーンとして忘れられない印象を残す。

 二人はいずれこうなる運命だったのだろう。その女性の出現は単なるきっかけに過ぎない。さらに彼女は“子宮が三つある内部奇形の患者”として二人の前に登場するという手の込んだ設定になっている。ここまでくるともう脱帽だ。

 一見地味な映画だが、「ザ・フライ」等と同じくらいSFXは手が込んでいる。大部分は主演の双子を演じるジェレミー・アイアンズの合成場面に使われた。まったくこの合成は見事としか言いようがなく、まるで二人の俳優が演じているような錯覚をおぼえてしまう。双子の診療所の異様なたたずまい、無機質な二人のアパートメント、真紅の手術衣、おぞましい手術器具、すべてがこの映画の不安な気分を盛りたてて、氷のような冷たい映像を作り出すことに成功している。

 静かな画面が醸し出す人間心理の恐さ、観た後に次第に毒が回ってくる映画だ。

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