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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「科捜研の女 劇場版」

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 2021年作品。テレビ画面での鑑賞だったが、観終わって“これ、本当に劇場で公開したのか?”とマジに思った。断っておくが、私は元ネタになったTVドラマを一度も視聴したことが無い。だから、20年以上にわたって放映されてきたこのドラマのセールスポイントは掴めていないし、そもそも主要キャラクターの人間関係さえ分かっていない。それでも最後まで退屈しないで対峙できたのは確か。しかし、映画版としてこれで良いのかという疑問は残る。

 京都にある洛北医科大学で、教授の石川礼子が屋上から転落死する。続けて、別の大学教員が同じような転落事故で死亡する。どちらも状況から見て自殺と片付けられそうになるが、検視の結果に疑いを持った科捜研の法医研究員である榊マリコたちは、府警捜査一課の土門薫警部補と共に捜査を開始する。どうやら被害者らは、同時期に東京の帝政大学の微生物学教授である加賀野亘の研究室を訪れていたらしい。加賀野は画期的な抗生物質の開発を進めていたが、そのプロセスには不可解な点があった。やがて微生物研究者の不審死が、国外でも発生するようになる。

 登場人物は多く、TV版のファンにはお馴染みであろう設定が展開されるが、適宜テロップを入れる等の“一見さん”に対する配慮は見て取れるし、あまり混乱することは無い。捜査の過程と犯行のトリック、犯人の動機などは一応理詰めに整えられており、大きな突っ込みどころは見当たらない。終盤にはマリコがピンチに陥るシークエンスもあり、飽きさせない工夫はある。だが、全体的に見て本作のグレードはTVのスペシャル拡大版程度なのだ。映画として仕上げるのならば、もっと手を加えて欲しい。

 たとえば、パンデミックが拡大して国家的な脅威に発展したり、犯人が「羊たちの沈黙」のレクター博士ばりの超悪党で神出鬼没な狼藉を繰り返したり、あるいは事件のバックにさらなる大物が控えていて府警の手に負えなくなったり等、いろいろと映画ならではの大仕掛けがあって然るべきだと思うのだが、製作側には(予算面もあり)そういう実行力は無かったのだろうか。それとも、観客はこれで満足するはずだと踏んだのか。どうもこのあたりの事情は承服しかねる。

 兼崎涼介の演出は多分にテレビ的だが無難な仕事ぶり。主演の沢口靖子は頑張っているし、内藤剛志に佐々木蔵之介、若村麻由美、風間トオル、小野武彦、斉藤暁、佐津川愛美、野村宏伸、山本ひかる、宮川一朗太、中村靖日、駒井蓮、そして伊東四朗とキャストは多彩。そして、秋の京都の風景は美しい。しかしながら、劇場用作品としての存在価値は図りかねる。

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