主演が真木よう子ということで、鑑賞前は身構えてしまった(笑)。何しろ、彼女は脇役で良い味を出すことはあっても、スクリーンの真ん中では満足出来るパフォーマンスを見せることはほぼ無かったからだ。だが、そこは場数を踏んで映画作りのツボを押さえた今泉力哉監督、キャストの良さを引き出して手堅くまとめている。内容も深みがあり、観て良かったと思える佳編だ。
主人公の関口かなえは夫の悟と共に、家業の銭湯を継いで切り盛りしていた。しかしある日、悟が突然姿を消してしまう。ショックのあまり銭湯を一時休業してしまう彼女だが、幼い頃から懇意にしていたパートの木島敏江の助けを借りて何とか営業を再開させる。そんな中、堀隆之という男が銭湯組合の紹介を通じて現れて、住み込みで働くことになる。一方、かなえは友人の菅野よう子の奨めもあり、悟の行方の捜査を探偵の山崎道夫に依頼する。豊田徹也による同名コミックの映画化だ。
タイトルの意味は“根底にある抑えられた感情”というものだが、ジャズ好きならばビル・エヴァンスとジム・ホールが1962年に発表したアルバムを思い出すだろう。実際、この映画のポスターの構図はあのアルバムのジャケットを踏襲している。それはさておき、人間には普段表に出さない隠された本性があるという、いわば当たり前の事柄をここまで平易に描いた映画はそう無いだろう。
かなえは堀に“あなたは自分のことを話さない”と不満を述べるが、そういう彼女も誰にも話すことが出来ない心の奥底に封じ込めた屈託を抱えている。ただ、それを映し出すだけならば並の映画だ。本作の玄妙なところは、彼らが“本音”だと思っていることの不確実性を問い詰めている点だ。そこを自覚した時から本当の人生が始まるという、一見ネガティヴでありながら実は前向きなテーマを差し出す作劇の巧妙さに唸ってしまう。
加えて、悟という本性も何もないキャラクターを配置させるあたりも出色。決して彼を否定するのではなく、これはこれで一つの人生のメソッドだという割り切り方も堂に入っている。探偵の山崎の造形は優れもので、かなえは不真面目に見える彼に振り回されるのだが、それでいて事の真相にたどり着いてしまう不可思議さには恐れ入った。
今泉力哉の演出は抜かりが無く、2時間を優に超える尺を弛緩することなく乗り切っている。ラストの処理も味わい深い。真木よう子は熱演で、この映画を支えていくのだという気迫が感じられる。今後もこの本気の仕事ぶりを期待したい。井浦新にリリー・フランキー、永山瑛太、江口のりこ、中村久美といった面子も万全。岩永洋のカメラによる清涼な映像と、細野晴臣の繊細な音楽も場を盛り上げる。
主人公の関口かなえは夫の悟と共に、家業の銭湯を継いで切り盛りしていた。しかしある日、悟が突然姿を消してしまう。ショックのあまり銭湯を一時休業してしまう彼女だが、幼い頃から懇意にしていたパートの木島敏江の助けを借りて何とか営業を再開させる。そんな中、堀隆之という男が銭湯組合の紹介を通じて現れて、住み込みで働くことになる。一方、かなえは友人の菅野よう子の奨めもあり、悟の行方の捜査を探偵の山崎道夫に依頼する。豊田徹也による同名コミックの映画化だ。
タイトルの意味は“根底にある抑えられた感情”というものだが、ジャズ好きならばビル・エヴァンスとジム・ホールが1962年に発表したアルバムを思い出すだろう。実際、この映画のポスターの構図はあのアルバムのジャケットを踏襲している。それはさておき、人間には普段表に出さない隠された本性があるという、いわば当たり前の事柄をここまで平易に描いた映画はそう無いだろう。
かなえは堀に“あなたは自分のことを話さない”と不満を述べるが、そういう彼女も誰にも話すことが出来ない心の奥底に封じ込めた屈託を抱えている。ただ、それを映し出すだけならば並の映画だ。本作の玄妙なところは、彼らが“本音”だと思っていることの不確実性を問い詰めている点だ。そこを自覚した時から本当の人生が始まるという、一見ネガティヴでありながら実は前向きなテーマを差し出す作劇の巧妙さに唸ってしまう。
加えて、悟という本性も何もないキャラクターを配置させるあたりも出色。決して彼を否定するのではなく、これはこれで一つの人生のメソッドだという割り切り方も堂に入っている。探偵の山崎の造形は優れもので、かなえは不真面目に見える彼に振り回されるのだが、それでいて事の真相にたどり着いてしまう不可思議さには恐れ入った。
今泉力哉の演出は抜かりが無く、2時間を優に超える尺を弛緩することなく乗り切っている。ラストの処理も味わい深い。真木よう子は熱演で、この映画を支えていくのだという気迫が感じられる。今後もこの本気の仕事ぶりを期待したい。井浦新にリリー・フランキー、永山瑛太、江口のりこ、中村久美といった面子も万全。岩永洋のカメラによる清涼な映像と、細野晴臣の繊細な音楽も場を盛り上げる。