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「ペイン・ハスラーズ」


 (原題:PAIN HUSTLERS )2023年10月よりNetflixから配信された社会派実録ドラマ。けっこう見応えのあるシャシンで、出来れば映画館で観たかった。ネタ自体に新味は無いのかもしれないが深刻な問題であることは確かで、何度でも取り上げる価値はある。さらに、語り口は軽妙で各キャラクターは十分に“立って”おり、鑑賞後の印象は良好だ。

 フロリダ州に住むシングルマザーのライザ・ドレイクは、生活に困窮していた。糊口を凌ぐためストリップまがいのポールダンス・パブで働いていたところ、ザナ製薬の営業担当のピート・ブレナーと偶然知り合う。そのツテで販売員として同社に入ることができたライザだが、医療の一翼を担うはずの製薬会社が手段を選ばない阿漕な商売に終始していることに面食らう。そうはいっても、日銭を稼ぐために彼女も強引なセールスに身を投じるしかない。

 折しもザナ製薬は末期ガンの鎮痛剤ロナフェンを猛プッシュしていて、ライザは社主催のセミナーに医師を賄賂などを使って招待し、大量の処方箋を書かせることに成功。それが功を奏してザナ製薬の売り上げは急上昇し、ライザの待遇は各段に向上する。しかしロナフェンには中毒性があり、過剰摂取による死亡事故が頻発。CEOのジャック・ニール博士は当局側から目を付けられ、ライザも窮地に陥る。

 2018年に起きたバデュー・ファーム社製のオキシコンチンによる薬害事件を題材にしているらしいが、コロナ禍を経た昨今ではいつ何時発生してもおかしくない事例だ。とにかく、ザナ製薬をはじめとするこの業界のヤバさには圧倒される。まあ、我が国でもこの分野での経営環境は厳しいとは聞いているが、米国のそれは桁違いである。

 本作を観てマーティン・スコセッシ監督の「ウルフ・オブ・ウォールストリート」(2013年)を思い出す向きもあるだろう。だが、多分にカリカチュアライズされていたあの映画とは違い、本作は派手な描写が目立つとはいえ全てマジに見えてくる。特に、難病を患う娘のために治療費の貸付けを銀行に頼むヒロインが、勤務先が製薬会社というだけで門前払いされてしまうシークエンスは本当に辛い。

 映画は当然ザナ製薬の遣り口が白日の下にさらされる方向に進むのだが、この一件が解決しても社会構造が歪なままだと似たような話が次々と出てくるのだろう。デイヴィッド・イェーツの演出は、ケレン味はほどほどに真正面から問題を捉えようとしていて好感が持てる。主演のエミリー・ブラントは好調で、どんな役柄でもこなせる守備範囲の広さは感心する。

 ピート役のクリス・エヴァンスは「キャプテン・アメリカ」シリーズの主人公とは正反対のクズ男を楽しそうに演じ、キャサリン・オハラやアンディ・ガルシアもさすがの“腹芸”を披露。ジョージ・リッチモンドのカメラによるフロリダの明るい陽光と、ジェームズ・ニュートン・ハワードの音楽も申し分ない。

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