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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「フェイブルマンズ」

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 (原題:THE FABELMANS )これは面白くない。スティーヴン・スピルバーグの自伝的作品ということで、さぞかし映画に対する激烈な愛が全編に迸っている熱い作品なのだろうと思ったら、ただのホームドラマだったので拍子抜けした。しかも、家庭劇として良く出来ているわけでもない。凡庸なテレビの連続ドラマの総集編を延々見せられているような案配で、手持ち無沙汰のまま2時間半を過ごしてしまった。

 1952年、ニュージャージー州に住むフェイブルマン一家は、当時封切られていたセシル・B・デミル監督の「地上最大のショウ」を鑑賞する。初めて映画館の大スクリーンに接した6歳の長男サミーは、たちまち映画の虜になり、母親のミッツィからプレゼントされた8ミリカメラを駆使して自主映画の真似事を始める。



 やがて一家はアリゾナ州に引っ越すが、サミーの映画熱は衰えずに仲間内での映画製作や家族の行事の記録等に腕を振るう。だが、ミッツィはエンジニアである夫バートの相棒としてたびたび家に出入りしていたペニーと懇ろな仲になり、家庭は崩壊の危機に直面。サミーはそんな事態に心を痛めつつも、映画人を目指してカリフォルニア州へと向かう。

 スピルバーグは現時点において世界で最も著名な映画監督の一人だが、自身をモデルとした本作の主人公の少年時代から青年期にかけて、どういうわけか常軌を逸するほどの映画愛が描かれることは一度も無い。単にサミーは趣味の延長として映画を仕事に選んだに過ぎないのだ。ハッキリ言って、これは欺瞞だろう。スピルバーグほどの人間が“趣味の延長線上”で監督やっているわけがなく、おそらくは彼はそう思い込んでいるだけなのだ。

 言い換えれば彼は“自分は偉大なるアマチュアなのだ”といったエクスキューズを捨てきれない。だから、この自伝的作品において自身の映画への偏愛を描くことは重要ではなく、ユダヤ人として冷や飯を食わされたことや、母親がよろめいたことを取り上げる方が大事になってしまった。だが残念ながら、それらのネタは深みが無い。有り体に言えば退屈至極だ。終盤には“あの人”を登場させて何とか体裁を整えようとするが、時既に遅しである。

 主演のセス・ローゲンをはじめ、父親役のポール・ダノ、母親に扮するミシェル・ウィリアムズ、そしてジャド・ハーシュやジュリア・バターズらが大根に見えてしまうのも、作品コンセプトに求心力が足りないからだ。あと余談だが、サミーの高校時代のガールフレンドを演じるクロエ・イーストが、何となくエイミー・アーヴィング(スピルバーグの最初の妻)に似ているように思うのは、気のせいだろうか(笑)。

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