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「ベネデッタ」

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 (原題:BENEDETTA )監督ポール・ヴァーホーヴェンの前作「エル ELLE」(2016年)は、彼らしくない(?)スマートでハイ・ブロウな線を狙ったせいで要領を得ない出来に終わっていたが、5年ぶりにメガホンを取った本作では従来の“変態路線”に復帰して闊達な仕事ぶりを見せる。時代劇としてのエクステリアも抜かりはなく、鑑賞後の満足度は高い。

 舞台は17世紀のイタリア中部トスカーナ地方ペシアの町。聖母マリアと対話可能で“奇蹟”も起こせると言われた少女ベネデッタは、6歳で地元のテアティノ修道院に入り、聖職者の道を歩むことになる。成人して修道院の生活にもすっかり馴染んだある日、夫のDVに耐えかねて修道院に逃げ込んできた若い女バルトロメアを保護する。



 ベネデッタは何かとバルトロメアの面倒を見ているうちに、同性愛の関係に発展。それを見咎めた修道院長のフェリシタは教皇庁に告発するが、ベネデッタは聖痕を受けて“イエスの花嫁になった”と主張。教皇大使ジリオーリと対立する。そんな中、イタリアでは当時は不治の病とみなされたペストのパンデミックが発生し、ペシアの町にも危機が迫ってくる。実在の修道女ベネデッタ・カルリーニの伝記映画だ。

 まず、映画は本来なら人々を救済するはずの聖職者の団体が、実は利権にまみれた生臭い存在であることを描き出す。何しろ修道院に入るにも多額の“お布施”が必要なのだ。そして個人的な妬み嫉みを神の名を持ち出して正当化しようとする浅はかさも示され、ベネデッタにしても“奇蹟”を都合よく利用しようとする。果てはマリア像をバルトロメアとの秘め事の“道具”にするという、バチ当たりなモチーフも挿入される。

 ならば本作はアンチ・クライストの冷笑的なシャシンなのかというと、そうではない。主眼は理不尽な宗教界のしきたりや、当時の封建的なモラル、そして疫病の蔓延などの逆境をものともせずに突き進むベネデッタの勇姿だ。その生き様は、目先の些事や地位やプライドなどに拘泥する修道院や教皇庁を通り越し、ダイレクトに市民にアピールする。

 ヴァーホーヴェンの演出はとことんエゲツなく、インモラルな描写にも手加減はしない。まあ、舞台がイタリアなのにセリフはフランス語というのはちょっとアレだが、そこは御愛嬌だろう。ベネデッタに扮するヴィルジニー・エフィラとバルトロメア役のダフネ・パタキアとの濡れ場は実に湿度が高い。特にエフィラの四十歳代とは思えぬボディとエロさには感服(笑)。

 脇にシャーロット・ランプリングやランベール・ウィルソンといったクセ者を配しているのも見どころだ。ジャンヌ・ラポワリーのカメラが捉えた泰西名画を思わせる映像と、アン・ダッドリーによる音楽も言うことなし。それにしても、ラストのベネデッタの決断と、それに続く史実の紹介には感慨深いものがある。

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