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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「オフィシャル・ストーリー」

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 (原題:La Historia Oficial )85年作品。第38回カンヌ国際映画祭主演女優賞や86年米アカデミー外国語映画賞など、多数のアワードを獲得したアルゼンチンの力作だ。もっとも、筋書き自体は納得しがたい点があり、個人的には万全の出来とは思えないが、この国の過酷な現代史を描破したことだけでも評価に値する。

 1983年、ブエノスアイレスに住む歴史教師アリシアは、実業家の夫ロベルトと養女に迎えたガビイと共に何不自由ない生活を送っていた。ある日、アリシアは学校の同窓会で亡命していたアナと再会する。なぜ彼女は国を離れていたのか、それはアナの昔の恋人ペトロが反政府活動をしていたため彼女も巻き添えを食らい、当局側に拘束されて拷問を受けたからだった。

 アナによれば、獄中で妊娠していた女性は産まれた赤ん坊を取り上げられ、その子たちは富裕層に叩き売られていたという。それを聞いたアリシアは、ガビイもその一人ではないかと思い当たる。そしてロベルトが軍事政権と懇意にして、ガビイの親権を取得したのではないかと疑念を持った彼女は、ガビイの本当の親を探し始める。

 まず、アリシアがどうしてガビイの親族を探そうと決心したのか、納得できるような説明が無いのは明らかな欠点だ。結果的に、それは自身の安定した生活を捨て去ることに繋がる可能性がある。その程度の予想は付くと思うのだが、彼女は意に介さないようだ。そしてラストの処理は、アリシアの意志が貫徹されたように見えて、よく考えれば状況は悪化しているのだ。作劇のフォローが必要だったと思われる。

 しかしながら、軍政下のアルゼンチンの描写は迫真性がある。反体制分子だけではなくその身内まで逮捕されて不当な目に遭わされる。果ては人身売買が横行し、いい目を見るのは軍事政権側で活動した一部の金持ちだけだ。この有様を“公式な筋書き(オフィシャル・ストーリー)”としてデッチ上げる、理不尽な社会情勢を監督ルイス・プエンソは鮮烈に描き出す。

 主役のノルマ・アレアンドロは力演だが、ロベルトに扮するエクトル・アルテリオの“受け”の演技の方が堂に入っていると思った。グリエルモ・バッタリアやチェーラ・ルイス、パトリシオ・コントレラスといった他のキャストも悪くない。

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