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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「LOVE LIFE」

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 今まで順調にキャリアを積み上げてきたはずの深田晃司監督だが、ここに来てまさかの失速。たぶん彼のフィルモグラフィの中では、下位にランクインさせるしかないレベルだ。少なくとも前作「本気のしるし」(2020年)に比べればかなり見劣りがする。第79回ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門出品ながら、受賞に至らなかったのも仕方が無いだろう。

 小学生の息子の敬太を連れて会社員の大沢二郎と再婚した妙子は、彼の両親の了承は得られないまでも平穏な生活を送っていた。ところがある日、敬太が不慮の事故で命を落としてしまう。妙子は悲しみに沈むが、葬儀の日に失踪した前の夫であり敬太の父親でもあるパクが突然現れる。宿無しのパクのために成り行きで彼の世話をする妙子だが、一方の二郎は以前付き合っていた山崎理佐と密かに会っていた。矢野顕子が91年に発表したナンバー“LOVE LIFE”に触発されて深田が書き起こしたシナリオを元に、映画は作られている。



 妙子たちが住んでいるのは大規模団地の一室なのだが、実はその部屋は二郎の両親が以前住んでいたところで、その両親は別棟に居を構えている。団地自体は社宅のようで、日常でも職場関係者との交流があるようなのだが、妙子は教会の活動もしていて、関係者が家に出入りしている。二郎と理佐とは結婚寸前だったが、彼が選んだのは妙子の方だった。その理由は明示も暗示もされていない。斯様な無理筋で御都合主義的な設定を見せられただけで、鑑賞意欲は減退する。

 さらに映画が進むと、パクと妙子が一緒になった事情は何ら具体的に描かれず、彼が行方をくらました背景も謎のままだ。そして二郎との再婚を決意した原因も分からない。終盤近くになるとなぜか舞台がパクの故郷である韓国に飛び、それから意味不明の展開が延々と綴られる。そもそも、パクが聴覚障害者であるという造型も、為にするような御膳立てでしかない。

 クレジットを見て気付いたが、本作にはプロデューサーの名前が明記されていない。あるのは製作委員会の名称のみだ。つまりは製作側では責任を回避したいような姿勢が見受けられる。深田の要領得ない脚本を精査する主体が不在だったと思われても仕方が無い。主演の木村文乃は頑張っているが、このように表情を露わにしない役柄が合っているとは思えない。

 永山絢斗に砂田アトム、神野三鈴、田口トモロヲといった面子も印象が薄い。わずかに目立っていたのが理佐に扮した山崎紘菜で、東宝専属と思われた彼女が独立系の作品に出たのは比較的珍しいと思った。なお、肝心の矢野顕子の楽曲との関連性は明確には見受けられなかった。

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