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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「アキラとあきら」

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 正直あまり期待はしていなかったが、思いのほか楽しめた。中身は定番の池井戸潤の小説(私は未読)の映像化なのだが、おそらくは脚色が上手くいっており、語り口も決して悪くはない。加えて主要キャストは健闘しており、2時間あまりを飽きさせずに見せきっている。全国一斉拡大公開される邦画も、常時このくらいのレベルを維持して欲しいものだ。

 伊豆半島の山肌にある小さなプレス工場の経営者の息子として生まれた山崎瑛は、父親の仕事が上手くいかずに工場を手放す有様を子供の頃に見せつけられ、以来貧しい生活を強いられる。しかし苦学の末、有名大学を卒業して日本有数のメガバンクに入社する。同期には、大企業の御曹司だが次期社長の座を蹴って銀行員の道を選んだ階堂彬がいた。

 同じ“あきら”という名前を持つ2人は、優劣付けがたい実力を持ち早々に頭角を現すが、瑛は担当した案件で理想論を押し通した結果、地方に左遷される。一方彬は持ち前の如才なさで出世街道を歩むかに見えたが、病に倒れた父親の跡目争いに関与せざるを得なくなり、銀行を退くことを考えるようになる。

 キャラクター設定が上手い。苦労人で熱血漢の瑛と、冷徹なエリートの彬。図式的な構図のように見えて、それぞれ明確に人物背景が描かれており違和感が無い。また、2人が特定の案件をめぐってこれ見よがしに青臭い議論を戦わせる場面も無い。個々に自分の道を歩んだ上で、ビジネス上の必要性が生じて2人の人生が再び交差するのである。

 瑛と彬以外の登場人物はクセの強い者が多いのだが(特に本店営業部の不動部長の存在感は出色)、主人公たちの立場に踏み入るような多面性を持たせてはいない。あくまでも与えられた性格付けを粛々と受け持つだけである。この割り切り方は賢明だ。また、意外と女っ気が無いのも良い。ビジネス物において色恋沙汰が絡むと、ドラマが停滞する危険性がある。後半に新人の女性行員が登場するぐらいに留めているのは適切な処置だ。

 終盤、瑛と彬が業界知識を駆使して状況を打破する様子が描かれるが、このくだりは池井戸作品のルーティンながら監督の三木孝浩はテンポ良く見せる。瑛に扮する竹内涼真のパフォーマンスには若干危惧していたのだが(笑)、なんと目を見張る奮闘ぶりで大いに見直した。これからも精進して欲しい。彬役の横浜流星もクールな中にパッションを秘めた役柄を好演。高橋海人に上白石萌歌、児嶋一哉、塚地武雅、宇野祥平、奥田瑛二、石丸幹二、江口洋介(儲け役)ら他のキャストも万全だ。舞台が再び伊豆に戻る幕切れも印象的で、鑑賞後の感触は上々である。

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