これはヒドい。まったく映画になっていない。キャラクター設定はもちろん、話の進め方、キャストに対する演技指導、映像処理etc.すべてにおいて落第だ。いくら監督が一時期は実績を残したベテランの小泉堯史とはいえ、この出来映えではプロデューサー側は冷徹に“お蔵入り”あるいは“撮り直し”といった決断を下すべきではなかったか。とにかく、今年度ワーストワンの有力候補であることは間違いない。
1867年の大政奉還により、260年余り続いた江戸幕藩体制は終焉を迎えたが、国内では新政府勢力と旧幕府軍との戦乱が勃発していた。そんな中、越後長岡藩の牧野家家臣・河井継之助は双方いずれにも属することなく中立を保とうとしていたが、いつの間にか官軍側と相対するようになる。司馬遼太郎の長編小説「峠」の映画化だ。
冒頭、徳川慶喜に扮した東出昌大がいつもの通り棒読みのセリフを披露する時点で、早くも映画全体に暗雲が立ちこめる。さらに河井継之助の挙動不審ぶりが遠慮会釈なく展開されるに及び、鑑賞意欲が大幅に減退。とにかく、主人公像がまったく練り上げられていないのには参った。継之助は越後長岡藩の中立化と独立を望んでいたらしいが、具体的にそれがどういうものだったのか、最後まで説明されない。そして、官軍と一戦交えることになった動機も明かされることはない。
また、藩の軍事責任者であったにも関わらず、知見の乏しさには呆れる。夜中に密かに八丁沖を渡って奇襲をかけるはずが、その行程は怒号が飛び交う大人数での移動だったり、せっかく調達したガトリング砲を使いこなせなかったり、極めつけは“西には信濃川があるから官軍はやって来ない”と勝手に判断したものの、いざ敵が川を渡って迫ってきた時に“何ィ!”と目を剥いて驚いたりと、素人ぶりを大いに発揮している。
戦いが終わって自ら“決着”を付けようとするくだりも、要領を得ない言動に終始。主人公がこの有様なので、あとのキャラクターは推して知るべしだ。見事に全員が“ただそこにいるだけ”であり、何の存在感も無い。合戦シーンは少しも盛り上がらず、登場人物たちが決死の覚悟で刃を交す場面も見当たらない。小泉の演出はメリハリが無く、平板そのものだ。
そもそも、かなりの長編である原作(私は未読)を2時間程度に収めようとしたこと自体、大間違いである。戊辰戦争時に40歳代であった継之助を60歳代の役所広司が演じるのは違和感があるし、役所より20歳以上年下の松たか子が妻に扮するのもオカシイ。香川京子に田中泯、永山絢斗、芳根京子、榎木孝明、渡辺大、佐々木蔵之介、井川比佐志、吉岡秀隆、仲代達矢など配役はかなり豪華だが、見せ場らしい見せ場も与えられていない。
やたら粒子の粗い映像は奥行きが無く、見た目も汚い。加古隆の音楽は印象に残らず、石川さゆりの主題歌も取って付けたようだ。本作を観ると、もはや我が国にはマトモな時代劇を撮れる人材がいないことを痛感する。とにかく、とっとと忘れてしまいたい映画だ。
1867年の大政奉還により、260年余り続いた江戸幕藩体制は終焉を迎えたが、国内では新政府勢力と旧幕府軍との戦乱が勃発していた。そんな中、越後長岡藩の牧野家家臣・河井継之助は双方いずれにも属することなく中立を保とうとしていたが、いつの間にか官軍側と相対するようになる。司馬遼太郎の長編小説「峠」の映画化だ。
冒頭、徳川慶喜に扮した東出昌大がいつもの通り棒読みのセリフを披露する時点で、早くも映画全体に暗雲が立ちこめる。さらに河井継之助の挙動不審ぶりが遠慮会釈なく展開されるに及び、鑑賞意欲が大幅に減退。とにかく、主人公像がまったく練り上げられていないのには参った。継之助は越後長岡藩の中立化と独立を望んでいたらしいが、具体的にそれがどういうものだったのか、最後まで説明されない。そして、官軍と一戦交えることになった動機も明かされることはない。
また、藩の軍事責任者であったにも関わらず、知見の乏しさには呆れる。夜中に密かに八丁沖を渡って奇襲をかけるはずが、その行程は怒号が飛び交う大人数での移動だったり、せっかく調達したガトリング砲を使いこなせなかったり、極めつけは“西には信濃川があるから官軍はやって来ない”と勝手に判断したものの、いざ敵が川を渡って迫ってきた時に“何ィ!”と目を剥いて驚いたりと、素人ぶりを大いに発揮している。
戦いが終わって自ら“決着”を付けようとするくだりも、要領を得ない言動に終始。主人公がこの有様なので、あとのキャラクターは推して知るべしだ。見事に全員が“ただそこにいるだけ”であり、何の存在感も無い。合戦シーンは少しも盛り上がらず、登場人物たちが決死の覚悟で刃を交す場面も見当たらない。小泉の演出はメリハリが無く、平板そのものだ。
そもそも、かなりの長編である原作(私は未読)を2時間程度に収めようとしたこと自体、大間違いである。戊辰戦争時に40歳代であった継之助を60歳代の役所広司が演じるのは違和感があるし、役所より20歳以上年下の松たか子が妻に扮するのもオカシイ。香川京子に田中泯、永山絢斗、芳根京子、榎木孝明、渡辺大、佐々木蔵之介、井川比佐志、吉岡秀隆、仲代達矢など配役はかなり豪華だが、見せ場らしい見せ場も与えられていない。
やたら粒子の粗い映像は奥行きが無く、見た目も汚い。加古隆の音楽は印象に残らず、石川さゆりの主題歌も取って付けたようだ。本作を観ると、もはや我が国にはマトモな時代劇を撮れる人材がいないことを痛感する。とにかく、とっとと忘れてしまいたい映画だ。