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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「シン・ウルトラマン」

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 明らかな失敗作だ。これは樋口真嗣と庵野秀明とのコンビの前作で評判の良かった「シン・ゴジラ」(2016年)と比べてみると、不備な点が明確になる。それは「シン・ゴジラ」が絶対悪であるモンスターと人類との一騎打ちという単純な図式を採用していたのに対し、本作は“現実世界に現れたヒーロー”という、一筋縄ではいかない構図を創出する必要がある。しかし、この映画はそのあたりがまるで精査されておらず、これでは評価するわけにはいかない。

 “禍威獣(カイジュウ)”と呼ばれる謎の巨大生物が次々と現れて、甚大な被害をもたらすようになった近未来の日本。政府はこの災厄に対処するため、各分野のスペシャリストを集めて“禍威獣特設対策室専従班”(通称:禍特対)を設立。班長の田村君男をはじめとする各メンバーは、日々困難なミッションをこなしていた。そんなある時、大気圏外から銀色の巨人が突如出現し、禍威獣と戦い始める。この事態に備え禍特対には新たに分析官の浅見弘子が配属され、隊員の神永新二と共に任務に当たる。



 まず、ウルトラマンが地球にやってきた理由が示されていない。昔のTVシリーズではそのあたりが平易に説明されていたのに比べると、随分といい加減だ。そして、突然飛来したこの謎の巨人を、大した困惑も議論も無しに皆がヒーローとして受け入れている不思議。実社会におけるヒーローのあり方を巡って試行錯誤を続けるアメリカのマーベルやDC作品とは、完全にレベルが違う。

 それに、禍威獣がなぜ主に日本にしか現れないのか、ほとんど詳説されていない。禍特対には専用のメカが備わっていないにも関わらず、彼らの主な仕事場は禍威獣が暴れているポイントの近くで、しかも全員どういうわけか現場作業には馴染まないスーツ姿。神永隊員に至ってはヘルメットも被らずに危険な人命救助に赴く。

 登場する禍威獣はネロンガにガボラ、ザラブ星人と、あまりスクリーン映えしない顔ぶれ。どうしてバルタン星人やレッドキングやゴモラなどの濃い面子を出さないのか、実に不満だ。メフィラス星人が暗躍するのはまあ良いとして、ゾーフィとゼットンとの関係など、無理筋の極みである。カラータイマーが無いウルトラマンの造形は違和感を拭えないし、ゾーフィのデザインもセンスが良いとは思えなかった。

 庵野秀明の演出スタイルは「シン・ゴジラ」を踏襲しているが、人類側の“事情”が上手く組み上げられていないため、ただ各キャラクターが早口でセリフを流しているだけという感じ。しかも、それが却ってスキル不足のキャストを目立たせている。いつも通りの長澤まさみ御大をはじめ、有岡大貴に早見あかりといったアイドル畑からの人材、さらに十分な演技指導無しでは大根方面に振られてしまう斎藤工と西島秀俊の仕事ぶりなど、かなり弱体気味だ。良かったのはメフィラスに扮した山本耕史ぐらいだろう。

 本作を観終わって思ったのは、この映画の前に「シン・ウルトラQ」(仮題)の製作が必要だったのではないかということだ。そこで禍威獣たちの“プロフィール”をじっくり描き、禍特対の結成プロセスにまで繋げれば、今回のウルトラマンの登場も説得力が増したかもしれない。

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