(原題:The Negotiator)98年作品。2人の人質交渉人(ネゴシエーター)が対峙するという映画。公開時の惹句が“IQ180の駆け引き”というものであったが、正直言って“それ、2人合わせてIQ180ではないのか?”と思ってしまった。斯様に本作には頭脳戦の要素は希薄だ。しかしながら主役2人の存在感は光っており、何とか最後まで映画を見せ切っている。
シカゴ警察の人質交渉人のローマンは、相棒のネイサンから警察の年金基金を何者かが横領しているらしいとの噂を聞く。やがてネイサンは殺害され、あろうことかローマン自身に容疑が掛かっていまう。切羽詰まった彼は、連邦政府ビルの内務局に乗り込み、居合わせたスタッフたちを人質にして立てこもる。真犯人は同じ警察署の内部にいることは確実であるため、ローマンは別地区のトップ交渉人セイビアンを指名するという思い切った策に出る。
ハッキリ言って、この“別の所轄の交渉人を相手にする”という方法以外に、頭脳戦らしい仕掛けは見当たらない。何やら微温的な展開に終始し、ピリッとしないまま終わる。そもそも、いくら自らは潔白だといっても、人質を取っての大立ち回りをやらかしてはタダでは済まないだろう。この“追われながら犯人を捜す”という筋書きは、ヒッチコック作品をはじめ過去に多くの実例があるのに、どうして交渉人同士のやり取りという、活劇場面が少なくなりそうな設定を起用したのか不明だ。
とはいえ、主役のサミュエル・L・ジャクソンとケヴィン・スペイシーの濃い面構えを見ていると、それほどケナすようなシャシンではないとも思ってしまう。F・ゲイリー・グレイの演出は堅実ではあるが、2時間20分も引っ張るようなネタではない。あと30分ぐらい削って、タイトに仕上げてほしかった。デヴィッド・モースにロン・リフキン、ジョン・スペンサー、J・T・ウォルシュ、ポール・ジアマッティといった他の面子は悪くない。
余談だが、人質とローマンが籠城する緊迫した空気の中で、西部劇の名作「シェーン」に関するネタがやり取りされる場面はウケた。あのラストシーンにおいて、シェーンはすでに死んでいたのか否か。少年の呼びかけにまったく応えないし、向かう先は墓場ではないか・・・・etc。そんなことを真剣に話し合うこと自体、けっこう笑えるものがある。