(原題:DON'T LOOK UP )ブラックなSFコメディとしては訴求力が高い。この“地球最後の日”というネタは過去に幾度となく取り上げられてきたが、本作は徹底的にシニカルな視点を貫くと同時に、ある種のリアリティまでも現出させ、かなりの異彩を放っている。またこの映画はNetflixで2021年12月から配信されているが、私は映画館で鑑賞。あらためて、このコンテンツ制作会社の実力を思い知らされた。
冷や飯を食わされている天文学者ランドール・ミンディ教授の教え子である大学院生ケイトは、ある日すばる望遠鏡で未知の巨大彗星を発見。しかも、このままでは約半年後に地球に衝突して人類滅亡の恐れがある。ランドールとケイトは直ちにNASAの担当教授に報告し、この危機を伝えるため大統領と対面したり、マスコミにも露出する。しかし、誰も真面目に取り合ってくれない。
だが、他の科学者も賛同するに及び、ようやく大統領は重い腰を上げて彗星を核ミサイルで迎撃する計画を立てる。そこに待ったを掛けたのがIT長者のピーター・イッシャーウェルで、かの彗星はレアメタルの塊であり、宇宙空間で解体して資源にしようと言い出す。その話に乗った大統領および世間は、一気に楽観モードに突入。それでも彗星は確実に地球に迫ってくる。
大統領やマスコミの態度はもどかしいが、それは事情を知る観客の立場だから言えること。実際にこんな事態になれば、主人公たちの物言いなど一笑に付されるに決まっている。そもそも、人間なんてのは正常性バイアスの権化であり、彗星が肉眼ではっきり見られるようになっても、多くは“ドント・ルック・アップ”という事なかれ主義のスローガンに引きずられるのだろう。
しかも、科学的知見を完全無視して儲け主義に走るIT長者と、それに追随する連中を見ていると、何やら昨今のコロナ禍に対して“コロナなんてただの風邪だ”と言い募る不逞の輩どもの姿がオーバーラップしてくる。
脚本も担当したアダム・マッケイの演出は、快作「マネー・ショート 華麗なる大逆転」(2015年)には及ばないまでも、前作「バイス」(2018年)よりも上質だ。展開はジェットコースター的で、繰り出されるギャグも秀逸。シニカルな結末まで存分に楽しませてくれる。
主人公2人に扮したレオナルド・ディカプリオとジェニファー・ローレンスをはじめ、ケイト・ブランシェットにメリル・ストリープ、ジョナ・ヒル、マーク・ライアンス、ロン・パールマン、さらにはアリアナ・グランデやティモシー・シャラメも出るという、かなりの豪華キャスト。加えて、それぞれに見せ場を用意しているのにも感心した。スカッとした単純明快娯楽編を望む向きには合わないが、目の肥えた映画ファンは満足できる内容かと思う。