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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「パワー・オブ・ザ・ドッグ」

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 (原題:THE POWER OF THE DOG)タイトルを見た時点では、ドン・ウィンズロウによる犯罪小説の秀作「犬の力」の映画化なのかと思ったのだが、西部小説の名手として知られるトーマス・サベージの同名小説の映像化であったのには少し拍子抜けした(笑)。原作は読んだことはないが、この映画の出来はどうも感心しない。世評は高いものの、個人的には受け付けないシャシンである。

 舞台は1920年代のモンタナ州。大きな牧場を兄のフィルと切り盛りするジョージは、地元の未亡人ローズと懇意になり、やがて結婚する。だが、部外者が家に入ることをよく思わない独身のフィルは、何かとローズとその息子ピーターに対して辛く当たる。父の死後、何よりも母を守ることが大切と考えて生きてきたピーターは、この状況に耐えられない。東部の大学に進学するため家を空けていたピーターだが、夏休み期間中に帰省したことにより、牧場内は不穏な空気に包まれる。



 個人的に、監督のジェーン・カンピオンは傑作「ピアノ・レッスン」(93年)以外は大した仕事はしていないと思っているが、本作も同様だ。とにかく、キャラクターの造形がまるで不十分である。実質的な主人公はフィルだが、大学出のインテリながら、仕事柄ワイルドに振る舞っているという設定。しかし、どうして牧場経営に携わっているのか不明だし、どのように繊細なインテリ臭を抑えて粗野な態度に転じたのか分からない。

 ジョージは存在感が無さすぎるし、ローズは酒におぼれるばかりで、結婚した理由も見出せない有様だ。ピーターは映画のキーパーソンになるべき人物だが、彼の言動の背景にあるはずの母親への執着がほとんど描かれていない。斯様にバックグラウンドが希薄な者たちがスクリーン上をウロウロするだけでは、映画的興趣が喚起されることはない。

 加えて、カンピオンの演出は冗長である。起伏のないタッチでカメラを回しているだけで、観ている間は眠気との戦いに終始。フィル役のベネディクト・カンバーバッチは完全なミスキャストであろう。骨の髄まで英国人である彼を西部劇に出そうという、その意図は理解不能だ。

 ローズに扮したキルステン・ダンストには見せ場がなく、ピーターを演じるコディ・スミット=マクフィーは思わせぶりな無表情と動きの乏しさに終始し、観ていて盛り下がる。西部の話でありながら監督の地元であるニュージーランドでロケをしているのも大して意味があるとは思えないし、映像自体も美しくもなければインパクトも無い。ジョニー・グリーンウッドの音楽は凡庸だ。

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