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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「ブックセラーズ」

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 (原題:THE BOOKSELLERS )興味深い題材を扱ったドキュメンタリーで、それだけで存在価値はあるのだが、映画としては物足りない部分がある。それは、話がマニアックな方向に行き、普遍性を欠くという傾向があるからだ。もっとも、そこを省略してしまうと製作動機も希薄になってしまう恐れもあり、その兼ね合いが難しいところである。

 ニューヨークでは世界最大規模のブックフェアが開催される。映画は、そこに集まる名うてのブックディーラーや書店主、コレクターたちに密着する。いずれも個性的で、本が好きでたまらない様子が映し出される。また、劇中ではビル・ゲイツが史上最高額で競り落としたというレオナルド・ダ・ヴィンチの手稿や、ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」のオリジナル原稿、あるいはルイザ・メイ・オルコットが偽名で執筆したパルプ小説といった珍しい書物が紹介される。天井にまで積み上げられた本は、観ているこちらにも紙とインクの匂いが漂ってきそうだ。



 ガイドを務めるニューヨーク派の作家フラン・レボウィッツの語り口はスマートで、ナレーションを担当した女優パーカー・ポージーの仕事ぶりも的確だ。しかしながら、ここで描かれるのは“収集家御用達”のグッズばかりである。なるほど、稀少本の佇まいは素晴らしい。装丁は見事だし、美術品と見まごうばかりの挿絵が入っていたり、思わぬ“挿入物”(例:マンモスの毛など)が添付されていたりと、興味は尽きない。

 だが、肝心の書物の中身、つまりは何が書いてあり何がどう魅力的なのかは、あまり説明されない。本のコレクターとディーラーは、もちろん本の内容が好きでこの道に入ったのだと思うが、そこに言及されていないのは物足りない。そして、消費者の本離れによる出版業界の斜陽化にも触れるものの、さほど深くは突っ込まれない。映画で登場人物の一人が言っていたが、多様化しないと先細りになる好事家だけの世界であるのは確かだが、何をどう多様化すればいいのか、結局はよくわからない。

 そして何より、本というのは一般家庭にとってスペースユーティリティという点では不都合なシロモノになりつつある。ましてや、電子書籍という形式が普及し始めている現在では尚更だ。そのあたりの考察があまりないのは不満だ。D・W・ヤングの演出はオーソドキシーに徹しているとは思うが、もう少しケレンを求めたいところだ。ただ、ジャズ中心のBGMは素晴らしい。

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