(原題:TWO DISTANT STRANGERS )2021年4月よりNetflixより配信。30分ほどの短編だが、かなり強いインパクトを残す佳編だ。登場人物を絞った密度の高い作劇。思い切った設定と、引き込まれるような展開で最後まで飽きさせない。第93回アカデミー賞にて最優秀短編映画賞を獲得している。
ニューヨークに住む黒人グラフィックデザイナーのカーター・ジェームズは、ある朝恋人のペリーの部屋で目を覚ます。愛犬に餌を与えるために自宅へ帰ろうとするが、アパートを出たところで白人の巡査に呼び止められる。突然に所持品の提示を求められ、カーターは抵抗するものの、警官たちに押さえ込まれて窒息死してしまう。その瞬間、彼はペリーのベッドで目を覚ます。どうやら時間が戻ったらしい。
それならばとカーターは部屋を出ないことにするが、部屋番号を間違えた機動隊が乱入し、彼は射殺される。また時間が戻り、今度は用心深くアパートを出るが、やっぱり巡査に殺されてしまう。そんなことを99回も続けた後、カーターは巡査にこの状況を説明して何とかこの場を乗り切ろうとする。
SF的なシチュエーションだが、主題はまさにアップ・トゥ・デートなものだ。言うまでもなく、最初カーターが警官から地面に押し付けられるというモチーフは、2020年のジョージ・フロイド事件を表現している。また、それから彼が遭遇する“不幸”はいずれも実際の事件をトレースしたものだ。つまりは、警察(および当局側)のレイシズムを寓話的な設定で告発したものである。そしてもちろん、このタイムループはいつまで経っても無くならない人種差別を象徴している。
ならば本作の構造は図式的で興趣に乏しいのかというと、断じてそうではない。斯様な明け透けな手法を取らざるを得ないほど、事態は切迫しているのである。監督のトレイヴォン・フリーとマーティン・デズモンド・ローは、一本調子になりがちなこの形式を、最大限に求心力を持たせるためにドラマティックに練り上げている。特に、終盤のカーターと巡査のやり取りにおける心理サスペンスはかなりのものだ。
主演のジョーイ・バッドアスは本職はラッパーらしいが、実によくやっている。巡査役のアンドリュー・ハワード、ペリーに扮したザリア・シモン、いずれも申し分ない。エンドクレジットには警官に殺された黒人の市民の名前が列記されるが、あらためてこの問題の大きさを認識せずにはいられない。