(原題:Camille Claudel )88年フランス作品。扱う素材は魅力的で、エクステリアも上質で風格がある。ただし、映画としては物足りない。製作の方向性が期待していたものとは違うようで、斯様な作劇であるならば、別にこの題材を扱う必要も無いのではと思ってしまった。
1885年のパリ。美術界の重鎮オーギュスト・ロダンは、新進気鋭の彫刻家カミーユ・クローデルと出会い、その才能に惚れこみ弟子とする。ロダンはカミーユのためにパリ郊外にアトリエまで用意するが、そのうち2人は懇ろな関係になる。だが、ロダンは内縁の妻ローズをはじめ女関係は多彩なタイプで、カミーユが彼の子を身篭って中絶してしたことも、さほど気にしていないように見える。
一度は別れを決断したカミーユだったが、それでもロダンのことが忘れられず、自暴自棄な行動に出る。巨匠ロダンの恋人で薄幸の芸術家カミーユ・クローデルを主人公にした、彼女の親族の血を引くレーヌ・マリー・パリスの著作の映画化だ。
相手を一途に思う若い女と、天才肌で移り気な男とのメロドラマとしては、そこそこ良く出来ている。しかし、これは美術史に名を残すロダンとそのパートナーの話なのだ。当然のことながら、そこには常人のレベルをはるかに超えた作品群の輝きと、主人公たちが持つ芸術に対する確固としたヴィジョンや狂おしいほどの情熱がなければならない。
しかし、本作にはそれが希薄だ。だから、作品に奥行きがない。これでは、彼らを主人公にした意味がないと思う。もう少し、彼らの仕事ぶりを追っても良いのではないだろうか。カメラマン出身でこれが監督デビュー作となるブリュノ・ニュイッテンは、登場人物の内面描写に関しては力不足のように感じる。単に男女の物語の話題性に寄りかかって演出をおこなっているようだ。
主演はイザベル・アジャーニとジェラール・ドパルデューという大物で、とくにアジャーニは本作でベルリン国際映画祭で最優秀女優賞を獲得するほどの貫禄を示しているのだが、キャストの実力をギリギリにまで引き出すような仕掛けは、最後まで見られなかった。なお、この映画の上映時間は3時間近い。どう考えても冗長であり、プロデューサーの力量には疑問符が付くところだ。マドレーヌ・ロバンソンにアラン・キュニー、ダニエル・ルブランなど脇にも手練れを起用しているが、印象に残らない。ただし、ピエール・ロムによる撮影と、ガブリエル・ヤレドの音楽は素晴らしかった。