(原題:ISN'T IT ROMANTIC )2019年2月よりNetflixにて配信。有り体に言えばラブコメディなのだが、ラブコメのルーティンを徹頭徹尾バカにしていながら、作品としてはしっかりとラブコメとして完結させるという、アクロバティックな筋書きが光る。まさにアイデア賞もので、面白く観ることが出来た。
ニューヨークの建築事務所で設計士として働くナタリーは、幼い頃からロマンティックコメディの世界に憧れていたが、母親からダメ出しを食らったのを皮切りに、成長してからも厳しい現実を突き付けられて色恋沙汰を嫌うようになっていた。ある日、地下鉄構内でひったくりに襲われた彼女は、犯人と揉み合う間に頭を強打し失神してしまう。目を覚ますと、彼女は周囲の雰囲気が妙にカラフルで脳天気であることに気付く。どうやら“ラブコメの世界”みたいな場所にワープしてしまったらしい。ナタリーは何とか元の世界に戻ろうとするが、どうしたら良いか分からない。
序盤の、ナタリーがラブコメを皮肉るところはかなりウケる。主人公は思っていることをすべて口に出すとか、放送禁止用語は発声出来ないとか、ベッドインしたらすぐに朝になるとか、クライマックスではヒロインはスローモーションで走るとか、そんなラブコメの“段取り”をコケにする。ところが自分がラブコメの“当事者”になると、その“段取り”の通りに行動してしまうという皮肉が効いている。
ナタリーはこの“ラブコメ世界”で同僚のジョシュが好きであることに気付くのだが、あいにく彼はインド系の美女と婚約していた。何とか結婚式をブチ壊そうとするナタリーの暴走ぶりが楽しい。興味深いのが、ヒロインは好きな男とのハッピーエンドを迎えることよりも、自己肯定に目覚めることを強調していることだ。考えてみればその通りで、自分を好きにならなければ他人を大事にすることなど、出来はしない。
トッド・ストラウス=シュルソンの演出は、嫌味にはならない程度にライトでポップだ。特にミュージカル仕立てになっているのは秀逸で、使われる楽曲も皆がよく知っている既成のナンバーであるのも納得。主演のレベル・ウィルソンはかなり太めながら、身体のキレが良く愛嬌も満点だ。リアム・ヘムズワースやアダム・ディヴァインといった男性陣も良いのだが、インド映画界のスターであるプリヤンカー・チョープラーが出ているのも嬉しい。1時間半というコンパクトな尺も申し分なく、観て損の無いシャシンと言える。