Quantcast
Channel: 元・副会長のCinema Days
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2422

「ウルフウォーカー」

$
0
0
 (原題:WOLFWALKERS )ファンタジー仕立てのアニメーションという、私が最も苦手とするジャンルに属する作品ながら(笑)、大いに楽しめた。しっかりとした作劇のセオリーに則って撮ってもらえば、形式・分類はどうあれ訴求力の高いシャシンか出来上がることを、改めて確認した。限られた範囲での公開だが、幅広い層に観てもらいたい良作だ。

 舞台は中世アイルランドの町キルケニー。イングランド政府から派遣された護国卿に仕えるため、狼退治の専門家であるハンターのビルが娘のロビンを連れてこの地にやってくる。護国卿の狙いは、キルケニー周辺の狼を一掃して木を伐採し、農地として再開発することだった。ある日ロビンは森の中で謎めいた少女メーヴと出会い、仲良くなる。



 実はメーヴは半人半獣の狼人間“ウルフウォーカー”で、眠っている間だけ魂が狼の姿になって活動できるのだった。メーヴは眠ったままの母親の“狼形態の本体”を探しており、ロビンは手助けすることを約束する。しかし、メーヴにうっかり噛み付かれたロビンも“ウルフウォーカー”になってしまい、そのことでビルは窮地に立たされることになる。アイルランドとルクセンブルクの合作だ。

 設定が面白い。睡眠中は狼になる“ウルフウォーカー”だが、“本体”に戻るためには眠っている自分のすぐそばにいなけれはならない。離れた場所で狼の姿のまま拘束されると、メーヴの母親のように“本体”には復帰できないが、この仕掛けが最後まで揺るがないのが良い。ロビンとビルの親子関係や、ビルと護国卿との主従関係の扱いも不自然さは無く、各登場人物の言動はすべて納得がいくように作られている。悪役の護国卿にしても、その振る舞いは合理的だ。このあたりが凡百のファンタジーものとは違うところである。



 トム・ムーアとロス・スチュアートの演出は実に達者で、テンポよく最後までドラマを進めている。終盤には大々的なバトルシーンもあるのだが、畳み掛けるようなタッチと“画面分割”のテクニックが駆使され、素晴らしい盛り上がりを見せる。また、当時のイングランドとアイルランドの関係を物語のスパイスとして取り入れているのも天晴れで、歴史好きにもアピールできる。

 絵柄やキャラクターデザインはディズニーやジブリ等とは全く異なるアーティスティックなものだが、違和感が無いばかりか目覚ましい美しさを醸し出している。また、ブリュノ・クーレやKiLa、オーロラといったミュージシャンによって提供された楽曲群も、かなり効果的。終盤の扱いも後味が良く、これは欧州製アニメーションの収穫だと断言したい。

Viewing all articles
Browse latest Browse all 2422

Trending Articles