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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「マ・レイニーのブラックボトム」

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 (原題:MA RAINEY'S BLACK BOTTOM)2020年12月よりNetflixにて配信。本国では絶賛されているらしいが、個人的にはどこが面白いのかさっぱり分からない映画である。キャストの演技も演出もストーリーも、評価すべき点は見当たらない。救いは上映時間が94分と短いことで、この調子で2時間以上も引っ張っていれば途中で“離脱”していたことだろう。

 舞台は1927年のシカゴ。当時高い人気を誇っていた女性シンガーのマ・レイニーは、レコード会社幹部の依頼により、忙しいツアーの最中に時間を作ってレコーディングに臨もうとしていた。バックバンドのトランペッターのレヴィーは野心的で、他のメンバーと揉め事を起こす。そこに遅れて到着したマ・レイニーは、白人のプロデューサーらとの“見解の相違”により激しく対立。レヴィーのおかげでチームワークを喪失したバンドの状態も相まって、スタジオは不穏な空気に包まれる。劇作家オーガスト・ウィルソンが82年に発表した戯曲の映画化だ。

 まず、このマ・レイニーというキャラクターの造型が気にくわない。実在の人物で、当時は“ブルースの母”と称されたほどの実力の持ち主だが、ここで描かれる彼女はワガママでどうしようもない。レコーディングスタッフやバンドのメンバーに対して散々文句を言った挙げ句、“言い分が通らないのならば、ツアーに戻る”と啖呵を切る。

 さらに彼女は吃音を持つ甥を曲の口上に起用させて、手間ばかりを周囲に強いる。厚化粧で趣味の悪い服装は史実通りかもしれないが、不愉快だ。バイセクシュアルという設定も、昨今のLGBTQのトレンドに安易に乗っかったようで面白くない。バンドの面子も同様で、レヴィーは自身のバンドを作るの何のと威勢の良いことを言うが、彼のパフォーマンスには突出したものは感じられない。

 他のメンバーも没個性で、彼らがどうでも良いことをグダグダと言い合う序盤にはアクビが出た。まあ、その中には黒人が受けた迫害を訴えるシーンもあるのだが、さほどの切迫度は無い。終盤の展開は乱雑で、ラストなんか“何だこりゃ”と言うしかないほどだ。

 ジョージ・C・ウルフの演出は凡庸で、特筆すべきものは無い。マ・レイニー役のヴィオラ・デイヴィスは熱演ながら、役柄自体が嫌いなので評価は差し控える。レヴィーを演じるのはこれが遺作になってしまったチャドウィック・ボーズマンだが、セリフが多い割にはキャラクターが活きてこない。致命的なのは演奏シーンに求心力が欠けることで、音楽自体を題材にしたシャシンではないことは分かるが、音楽担当にブランフォード・マルサリスという大物を起用していながらこの程度とは、不満が残る。あと関係ないが、マ・レイニーが歌うシーンでは歌詞の字幕が出ないのには閉口した。

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