(原題:THE DIG )2021年1月よりNetflixにて配信。事実を元にした題材は興味深く、映像は素晴らしく美しいのだが、ドラマの内容はあまり評価出来ない。ストーリーの焦点が絞り切れていない印象を受ける。各キャストはかなり健闘しているのに、もったいない話である。
1930年代終盤、イギリスのサフォーク州に広大な土地を所有する未亡人のエディスは、敷地内にある墳墓を発掘するため、アマチュアのベテラン考古学者バジルを雇う。当初、墳墓は盗掘されて中には何も無いと予想していたが、実際に作業を開始すると、バイキングの時代よりも遥かに古い時代の歴史的遺産が眠っていることが判明。エディスらは近所や親戚筋から人を集めて、本格的な発掘に乗り出す。しかし、遺跡を大英博物館に移設することを主張する当局側の人間たちもやってきて、バジルと対立する。やがて第二次大戦が勃発し、この地にも影響が及んでくる。ジョン・プレストンによるノンフィクション小説の映画化だ。
恥ずかしながら、このイギリスの著名な遺跡“サットン・フー”のことは本作を観るまで知らなかった。7世紀のアングロサクソン人のものだというが、日本だと古墳時代の後期に当たる。物語は当然、この遺跡を巡ってのエディスたちと当局側の駆け引きと、バジルとエディスの触れ合いを中心に描くものだと思われた。
しかしどういうわけか、途中でエディスの親戚筋の若い男と、考古学者の妻との恋愛沙汰がストーリーの真ん中に躍り出る。この男は従軍が決まっており、映画としては戦争の不条理をも強調したつもりだろうが、話がチグハグになるばかりだ。当然、そのあおりを食ってバジルとエディスの描写は扱いが軽くなる。この2人の“その後”の人生も表面的に触れるのみになってしまった。
サイモン・ストーンの演出は今回は要点を間違えただけで、本来は実力があると思われるだけに惜しい。とはいえ、マイク・エリーのカメラによるこの地方の風景は、目覚ましい求心力を発揮している。ここをチェックするだけでも、観る価値はある。
エディス役のキャリー・マリガンは、最初彼女だと分からなかったほどの老け役に徹していて驚いた。バジルに扮するレイフ・ファインズの高年齢メイクにも感心する。リリー・ジェームズにジョニー・フリン、ベン・チャップリンなど、その他のキャストも悪くない。それだけに、作劇の不備は残念だ。