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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「あのこは貴族」

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 つまらない。フワフワとした印象しか受けない。何も描いていないし、描こうともしていない。すべてが表面的であり、見応えは皆無だ。いい役者を起用しているのに、もったいない話である。驚くべきことに世評は高いようなのだが、他人の意見がどうあれ、私としてはダメなものはダメだと断言するしかない。

 渋谷区松濤の裕福な開業医の家に生まれ、20歳代後半になるまで箱入り娘として育てられた華子は、結婚を考えていた恋人に振られて少なからずショックを受ける。それでも何とか新しい交際相手を探そうとしていた彼女だが、周囲の紹介で出会った弁護士の幸一郎に一目惚れしてしまう。彼は見た目も毛並みも申し分なく、結婚を決めるまでそう時間は掛からなかった。



 一方、富山から大学進学のため上京した美紀は、父親の失業により退学を余儀なくされる。それからはただ生活するために、目先の仕事に追いまくられていた。実は、美紀は幸一郎と付き合っていた。そのことを知った華子は、美紀に会うことにする。山内マリコの同名小説の映画化だ。

 華子や幸一郎が属している、いわゆる“上級国民”の描写には失笑を禁じ得ない。もちろん現在も社会的ヒエラルキーは存在しているし、上級セグメントの者たちの“生態”もここに描かれている通りなのかもしれないが、それにしても扱いが大時代的でリアリティに乏しい。これでは谷崎潤一郎の「細雪」の劣化コピーか、はたまた大昔の少女マンガの焼き直しではないか。

 結婚前に幸一郎の親族は華子のことを調べ上げているのに対し、華子側は何もしていないというのも呆れる。幸一郎のようなハイスペック男子が、見合いのような段取りで簡単に結婚を決めるわけがなく、他に異性関係があると疑うのが自然だろう。そもそも華子の造型にも共感できない。覇気も主体性も無く、有り体に言えば退屈な女だ。終盤近くになって少しは前向きに生きるような素振りは見せるが、人間そう容易く変われるものではない。

 美紀にしても同様で、逆境にもめげず何とかやってこられたのは、ルックスの良さ以外に何かあるとも思えない。幸一郎に至っては論外で、中身が無いように見える。少しは人望のあるところを見せないと、この役柄はアウトだろう。社会的格差の問題を強調するにしても、せいぜい富山の田舎町のシャッター街をサッと映すだけでは話にならない。

 岨手由貴子の演出はメリハリが無く、ただのっぺりとした時間が流れるだけ。何やら“抑えたタッチ”と“退屈な作劇”との見分けがついていないようだ。華子役の門脇麦をはじめ、水原希子や高良健吾、石橋静河、山下リオ、篠原ゆき子と役者は揃っているが、どうでもいい演技しかさせてもらっていない。わずかに目を引いたのは衣装デザインぐらいで、個人的にはほとんど存在価値のない映画だった。

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