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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「世界で一番しあわせな食堂」

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 (原題:MESTARI CHENG )この内容にしては上映時間が長いし、筋書きに突っ込みどころもあるのだが、実に肌触りの良い作品で最後まで気持ち良く観ていられた。ミカ・カウリスマキ監督の作品に接するのは初めてながら、シニカルでストイックな作風が身上の弟のアキ・カウリスマキ監督とは様相がまるで違うのも面白い。

 フィンランド北部にあるラップランド地方の小さな村の食堂に、中国人の中年男チェンが小学生の息子と一緒にやってくる。チェンは昔世話になったフィンランド人に会いに来たのだが、誰もそれらしい人物を知らない。途方に暮れた彼を、食堂の女主人シルカは泊めてやることにする。翌日、なぜか食堂に中国人の団体客が押し寄せてくる。彼らを満足させる料理を出すことに自信のないシルカを助けたのが、実は上海の有名レストランでコックをやっていたチェンだった。



 地元の食材を使った上海料理を急遽振る舞い、彼はその場を切り抜ける。そして食堂の調理係になった彼の料理は評判を呼び、店は大繁盛。チェンは常連客たちとも親しくなる。だが、観光ビザの期限が迫り、チェン親子は帰国しなければならない。いつしか彼を憎からず思うようになっていたシルカは、大いに悩むことになる。

 いくら“海外進出”が盛んな中国人観光客とはいっても、名所旧跡も無い片田舎に大挙して来訪するとは考えにくい。また、薬膳料理が“万能薬”みたいな扱いであるのも、何か違う気がする。そもそも製作に中国資本が入っているためか、やたら彼の国を持ち上げているのも気になるところだ。しかし、各キャラクーの描写には卓越したものを感じる。

 チェンもシルカも辛い過去を抱えており、いまだ立ち直っていない。そんな2人が出会うことにより、改めて人生に向き合っていくプロセスには説得力がある。悪い奴が一人も出てこないのは、さすが世界幸福度報告書でトップのフィンランドらしいが、なぜ彼らが善良なのか、その理由が垣間見えるあたりも興味深い。それはひとえに地域コミュニティが有効に機能しているからに他ならないのだが、映画はそのことを必要以上に強調しないのも納得だ。

 ミカ・カウリスマキの演出は悠然としていて無理がない。ヤリ・ムティカイネンのカメラによる美しい自然の風景も印象的だ。主演のアンナ=マイヤ・トゥオッコとチュー・パック・ホングをはじめ、カリ・バーナネン、ルーカス・スアン、ベサ=マッティ・ロイリら脇のキャストも好演だ。それにしても、この食堂で当初出されていたのはソーセージとマッシュポテトと野菜の付け合わせという、とても美味しそうとは言えないシロモノであるのには苦笑した。こんなのばかり毎日食っていれば、キレイに盛り付けられた中国料理に皆瞠目するのも良く分かる。

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