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吉村昭「三陸海岸大津波」

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 今読むべき本かと思う。明治29年の明治三陸地震と昭和8年の昭和三陸地震、そして昭和35年のチリ地震、それぞれがもたらした東北地方を襲った大津波の実相を描くルポルタージュだ。さすがに数々の文学アワードを獲得した吉村の取材力と筆致は卓越しており、その内容も相まって一気に読ませる。間一髪助かった人々のリアルな証言や甚大な被害の状況、救助活動の実態など、題材は多岐にわたっており読み飛ばせる箇所はない。本書は1970年に出版されている。東日本大震災の41年も前だ。

 注目すべきは、先人たちはこの大災害に直面し、後世に対して“警告”を残していたことだ。代表的なものは岩手県宮古市の山腹にある石碑で、そこには“此処より下に家を建てるな”と明記されている。ところが時間の経過と共に徐々にこの“警告”は忘れ去られ、石碑よりも海側にも家が数多く建てられるようになった挙句に、2011年の大惨事に繋がることになる。もとより“失敗の記憶”は風化しやすいのだろう。



 しかし、一般庶民が忘れるのは仕方がなくとも、政府や自治体が危機管理を疎かにしてはいけない。ちなみに、昭和8年の地震の際には政府の対応は恐ろしく早く、救援体制から税制措置までが迅速に実施されたという。2011年の民主党政権は精一杯やったとは思うが、それでも不十分であったことが後々指摘された。言うまでも無く、それまでの地震被害の教訓が活かされていなかったのである。

 ましてや現在(2021年)の自公政権が非常時に機能するとは微塵も思えない。何しろコロナ禍への対応は後手後手に回っているだけでなく、スキャンダルが頻発するなど、頭の上の蝿を追うことさえ出来ない有様だ。

 大地震は確実にやってくる。それが明日なのか、あるいは数十年先なのか、誰にも分からない。そして、その大地震がどこで起きるのかも予想できない。今は南海トラフが取り沙汰されているが、この地震列島に住む以上、安全確実な地域など皆無だ。今マスコミでは、2011年の出来事を回想するような記事があふれている。悲劇を扱うのも結構だが、これからどうするべきかといった、防災の観点から国の行く末を模索するようなモチーフはあまり見当たらない。早くも10年前の“失敗の記憶”は忘れられようとしている。

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