(原題:The China Syndrome)79年作品。今年(2021年)は、東日本大震災による福島第一原発の事故から10年目に当たる。そこで思い出したのがこの映画だ。公開当時はセンセーショナルな扱いをされ、いくつかの映画アワードを獲得している。描写自体は古さを感じさせるかもしれないが、主題やモチーフは現在でも通用するはずだ。
地方テレビ局の女性リポーターのキンバリー・ウェルズは、硬派なネタを扱うジャーナリストを目指しているが、実際は地域のどうでもいいニュースを担当させられている。その局では原子力発電所のドキュメンタリー特番を制作することになり、彼女はカメラマンのリチャードと共に現地取材に向かうのだが、誤って撮影禁止の場所で回していたカメラに、思わぬものが映り込む。それは、原子炉に何らかのトラブルが発生してスタッフが何とか抑え込んでいる画像に見えた。
後日、キンバリーはこの映像を原子力の専門家に見せると、これは事故一歩手前の状態であることを指摘される。一方、発電所のコントロールルームの責任者ジャック・ゴデルは、安全対策に手落ちがあることに気付いていた。彼はキンバリーに接触し、この件をマスコミに発表するように要請する。
ジェームズ・ブリッジスの演出は圧倒的で、危機を回避しようとするジャックとキンバリーたちが、当局側や会社の妨害を潜り抜けて核心に迫るプロセスは下手なアクション映画よりも数段スリリングだ。さらに、刻一刻と不気味な振動を増してゆく原子炉と、原発問題に無関心な一般ピープルの有様とが、ドラマを通奏低音のごとくフォローする。
考えてみれば、原発事故なんてのは全て“人災”だ。しかし権力側はそれを隠蔽する。福島第一原発の一件も同様だが、いまだにあれを“仕方なかった(天災だった)”と片付ける向きが多いのは、事態はこの映画が作られた頃とほとんど変わっていない。主演のジェーン・フォンダとジャック・レモンのパフォーマンスは素晴らしく、自らの職務と社会正義との板挟みになって苦悩する人物像を上手く表現していた(レモンは本作で第32回カンヌ国際映画祭において最優秀男優賞を獲得)。
リチャード役のマイケル・ダグラスは、当時まだ30歳代ながらプロデュースを担当していたことも感心する。余談だが、彼の父親カーク・ダグラスは、同年に作られ原発問題をネタにしたアルベルト・デ・マルチーノ監督の「悪魔が最後にやってくる!」に主演しているのも、単なる偶然とは思えない。