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「ヒポクラテスたち」

 80年作品。平成ゴジラシリーズなど数々の娯楽作品を手掛けた大森一樹監督の最良作で、その年のキネマ旬報ベストテン日本映画部門第3位にランクインしている。大学の医学部を舞台にした青春群像ということで、自らも医大生であった大森にとっては自家薬籠中の素材だったこともあるが、とにかく伸び伸びと撮られており訴求力も高い。また、医療問題を扱ったネタを挿入していることも評価されている。

 主人公の荻野愛作は、京都にある医科大学の最終学年6回生。卒業を控えての臨床実習が行われていた。彼のグループには、親が医者で成り行き上医大に入った河本や熱血漢の大島、年かさで妻子持ちの加藤、野球部出身で“打って走れる医者”を目指している王、そして唯一の女子であるみどりがいた。彼らはそれぞれ不安や悩みを抱えながら、何とか自分たちの道を切り開こうとする。

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 製作当時の70年代末から80年代初頭には全共闘世代はとうの昔に大学から去っており、祭りの後を思わせる虚脱感が充満し“シラケ世代”と呼ばれた彼らだが、それでも医療者としての矜持や社会に対する意見も持ち合わせていた。実習ではもちろん患者と接して問診を行うのだが、机上の学問とは違う現場の難しさに彼らは戸惑うばかりだ。

 また、愛作は恋人が妊娠したかもしれないという“窮地”に立たされたり、後輩の無鉄砲な行動があったりと、トラブル続きでメンタルが参ってしまう。他のメンバーも決して順調に実習を進めているわけではないが、それでも何とか折り合いを付けて頑張っている姿は共感出来る。医療訴訟問題についてのデモや、規制改革を訴える医療法人の存在など、社会に目を向けたモチーフが採用されていることも認めて良い。

 大森の演出は流麗で、一点の淀みもない。主演の古尾谷雅人(これが一般映画初出演作)をはじめ、光田昌弘や西塚肇、柄本明といったキャストは皆好演だ。アイドルを“卒業”した伊藤蘭の女優としての本格デビュー作であったことも話題だったが、小倉一郎に内藤剛志、斉藤洋介、森本レオ、そして手塚治虫や鈴木清順、原田芳雄といった“濃い”面子を集められたのは、この頃の大森監督の才気煥発ぶりを買っている向きが多かったのだろう。あと蛇足だが、劇中でのみどりのセリフ“それは、恋は恋でも、セコイでしょ”というのはかなりウケた。

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