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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「タイトル、拒絶」

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 決してウェルメイドな作品ではないが、観る者によってはかなり心に“刺さる”シャシンである。この映画に出てくる者たちは、大半がロクでもない。社会のメインストリームから外れている。しかし、彼らの苦悩と捨て鉢な感情は、少しでも日々の暮らしに対して違和感を抱えている人間にとっては、決して他人事ではない。スパイスの利いた佳編というべき作品だ。

 エレベーターも無い古い雑居ビルにあるデリヘルの事務所で働くカノウは、主に従業員たちの世話をしている。彼女は当初デリヘル嬢として入店したのだが、最初の仕事で客と重大なトラブルを引き起こし、スタッフに回されたのだ。事務所内はいつもデリヘル嬢たちの嬌声が絶えないが、その中でも一番人気のマヒルは周りの雰囲気を一変させるほどの存在感を有していた。そんな中、支配人は若くてスタイルの良い新人を連れてくる。途端に店内の上下関係は揺らいでくるが、店長がデリヘル嬢に手を出していることが発覚するに及び、従業員全員が抱える屈託が溢れ出してくる。



 冒頭、下着姿のカノウが小学生の頃にクラスで演じた芝居のことを語り出す。出し物の「カチカチ山」では、彼女はタヌキの役をやっていた。でも、可愛らしいウサギばかりが目立っており、観客の誰もタヌキになんか目もくれない。だから、彼女はウサギに憧れていたのだという。しかし、カノウはウサギのように表舞台に立てるキャラクターではなかったのだ。何をやっても上手くいかず、風俗嬢ですら不向きである。

 マヒルはいつも笑っているが、とうに人並みの幸せを求めることを諦めている。彼女が縋るのはカネだけで、楽して余生を送るだけの財力を身に付けることしか考えていない。他にも、明らかに精神のバランスを崩している者や、自分だけの世界に入り込んでいる者がいる。スタッフも異性関係については完全に醒めているか、あるいは惰性で続けているかのどちらかだ。

 そんな彼らが狭い店内で虚勢を張り、互いにマウンティングに励もうとも、それは限られた空間(しょせんは風俗店)の話でしかない。だが、そんな様子を“ドロップアウトした連中の内輪もめ”と片付けることは出来ないのだ。自身が見渡せる範囲内での立ち位置に拘泥し、結局は消耗していく感覚を味わったことがある者は多いはず。その意味で、本作の登場人物たちには大いに共感出来る。終盤の扱いには、逃げ出したいけどそれは叶わない彼らのディレンマを即物的に描き出し、実に痛切だ。

 これがデビュー作となる山田佳奈監督の仕事ぶりは、セリフが聞き取りにくいなどの不手際はあるものの、一貫して堅実なタッチを維持している。主演の伊藤沙莉は好演で、その開き直ったような存在感はインパクトが大きい。恒松祐里に佐津川愛美、片岡礼子、でんでん、モトーラ世理奈といった他の面子もイイ味を出している。あと関係ないが、姉妹を演じた恒松とモトーラが、実は生年月日が同じだということを最近知り、個人的にウケてしまった(笑)。

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