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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「テロルンとルンルン」

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 上映時間が約50分という小品ながら、訴求力は高い。脚本も演出も適切で、各キャストのパフォーマンスは申し分ない。そして何より、我々が直面している問題の一つに鋭く切り込んでいるあたりは見上げたものである。軽量級ラブコメみたいなタイトルに相応しくない(笑)、硬派の映画だ。

 広島県竹原市に住む朝比奈類は、自分のために作ってくれた花火で父親が事故死したのをきっかけに、実家のガレージに長い間引き籠もっている。今は家電品の修理を引き受ける等して、細々と暮らしている。ある日、類が飛ばした模型飛行機を拾った高校生の上田瑠海が、ガレージを訪ねてくる。



 窓を隔てた2人の出会いは最初はぎこちないものだったが、瑠海が壊れた猿のオモチャの修理を類に頼んだことにより、次第に打ち解けていく。実は瑠海は耳が不自由で、そのため学校では辛いイジメに遭っていた。彼女にとって、類と会うことだけが気の休まる一時だった。だが、類を危険人物と断定している瑠海の母親と地域住民は、2人の仲を裂こうとする。

 類の父親が亡くなったのは単なる事故であり、当時は幼かった類自身の責任ではない。もちろん、瑠海の耳が聞こえないのも、彼女のせいではない。ところが、他の大勢と様子が違うという理由で、世間は2人を徹底的に社会から排除する。それどころか、彼らをイジメることを絶好のストレスの捌け口にしている。

 類と瑠海に問題があるのではなく、彼らを阻害する社会にこそ病理があるのだが、2人を取り巻く人々はそのことに気付かない。この閉塞的な状況を告発している点で、本作は大きな求心力を獲得している。舞台になる港町は美しいが、海と山に囲まれて、行き場の無い主人公たちの立場を象徴しているかのようだ。それだけに、風雲急を告げる幕切れが観る者な強いインパクトを残す。

 監督の宮川博の仕事ぶりは的確で、無駄なシーンも見当たらず、キビキビとドラマを進めている。川之上智子による脚本も簡潔だ。主演の岡山天音と小野莉奈の演技は上出来であり、少ないセリフでキャラクターの内面を上手く表現していた(関係ないが、瑠海が通う高校の制服はユニークだ ^^;)。川上麻衣子に西尾まり、中川晴樹、橘紗希といった脇の面子も悪くない。

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