(原題:MINDING THE GAP )ドキュメンタリー映画であるにも関わらず、まるで優れた劇映画のようなエクステリアと味わいを持ち合わせた逸品であると思う。第91回アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門をはじめ第71回エミー賞ドキュメンタリー部門とノンフィクション特別番組部門での候補になり、第34回サンダンス映画祭ブレイクスルーフィルムメイキング賞などを獲得した話題作で、オバマ元大統領も絶賛しているらしい。
舞台はイリノイ州の地方都市ロックフォード。この街で暮らすキアーとザック、ビンの3人の若者の姿を12年に渡ってカメラは追っている。なお、監督と撮影は3人組の一人であるビン・リューだ。彼らは全て恵まれない生い立ちで、貧困や暴力に絶えず悩まされてきた。それでも、スケートボードに興じている間だけは辛いことを何もかも忘れて、生きている実感を味わうのだった。
正直言って、彼らが犯罪に手を染めていないことが奇跡に思える。それだけ3人を取り巻く状況はシビアなのだ。ロックフォードの街は、かつては鉄鋼や石炭、自動車などの産業で栄えていた。しかし、現在はそれらは完全に斜陽化し、衰退の中にある。地域全体がいわゆるラストベルト(錆びついた工業地帯)に位置しており、先は全く見えない。
そんな中で、3人は今までどう周囲に向き合い、現在はどのような状態で、将来はどうありたいのか、映画の中では明解かつ平易に語られる。それぞれのキャラクターが“立って”おり、ヘタに俳優が演じるよりも遙かに魅力的に捉えられている。
特に、黒人であるキアーが抱くザックとビンに対する微妙な距離感や、彼の亡き父に関する思い出、身持ちが良いとは言えない母親への複雑な感情などが遺憾なく描出されているのには感心した。プライドの高いザックとその妻ニナとの関係性も、出来の良い家族劇を観ているような感触を覚える。そして映像はとても魅力的だ。沈んだような街の風景の中に、覇気の無い人々が行き来する構図は、これが若手監督の作品とは思えないほどに深みがある。
そして圧巻なのは、3人がスケートボードを楽しむ場面だ。カメラマンを兼ねるビン自身もスケボーに乗っているため、素晴らしいスピード感が醸し出される。私はスケボーを嗜んだことは無いが(笑)、このスポーツをやっている間は世の中の憂さも吹き飛んでしまうことを想像出来るほどの臨場感だ。3人(そしてニナ)の今後の人生は楽観は出来ないが、それでも決して真っ暗闇ではない。彼らなりの矜持を抱いて事に当たれば、何とかなるのではと思ってしまう。そんな鑑賞後の印象は、かなり良好だ。