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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「火宅の人」

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 86年作品。御存知檀一雄の私小説とされる有名な原作の映画化だが、文芸的香りは見事なほど希薄である。代わりに何があるのかというと、全編に渡って展開されるアクションだ。たたし何も派手な活劇シーンがあるわけではない。登場人物の佇まいと言動が、ことごとくハードボイルドで即物的なのである。まさに深作欣二監督の面目躍如といったところだ。

 売れっ子作家の桂一雄は、最初の妻リツ子に死なれた後にヨリ子と所帯を持ったが、昭和31年に新劇女優の矢島恵子と懇ろな仲になる。直木賞を獲得した際にも、彼は受賞の喜びよりも恵子から褒められることを第一に考えたほどだ。恵子との不倫旅行の後、何食わぬ顔で家に戻った一雄だったが、ヨリ子は速攻で家出する。仕方なく一雄は恵子と暮らし始めるが、今度は彼女の妊娠が発覚。逃げるように東京を離れた一雄は、旅の途中でかつて自分がケガをしたとき介護してくれた葉子に再会する。早速彼は、葉子とのアバンチュールを楽しむのだった。



 一雄はとことんインモラルながら、観ている側としては世の中をひょいひょいと渡ってゆく“好色一代男”みたいな痛快さを覚える。周りのキャラクターも濃く、とても一般人とは相容れない者ばかりだが、全員が生きることに貪欲で、過剰な自己アピールを躊躇無く敢行する。その有り様は、まさにアクションだ。

 一例を挙げると、主人公が長い旅から久しぶりに愛人宅に帰ってみると恵子は留守で、次に自分の家に戻ってヨリ子に愛人へ渡すつもりだった大きな魚を差し出すと、妻がいきなり無表情で出刃包丁を取り出し、魚の頭に叩き付けるというシークエンスなどその最たるものだ。

 恵子との緊張感をはらんだ関係もさることながら、中原中也や太宰治でさえ、登場シーンは少ないながらも今にも暴れ出しそうな剣呑な雰囲気を醸し出している。そもそも、自身の浮気話を堂々と連続小説として雑誌に載せるということ自体、実にバイオレントだ。奔放で屈託が無い葉子が、ずっとマトモに見えてくる(笑)。

 主役の緒形拳は完全に“受け”の演技なのだが、さすがの海千山千ぶりで檀一雄という男の奥深さを表現している。いしだあゆみに原田美枝子、松坂慶子といった女優陣、そして真田広之に岡田裕介、石橋蓮司といった他のキャストも手堅い。一雄の母親役で檀ふみが出ているのも驚く。木村大作によるカメラワークや、井上尭之の音楽は見事だ。

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