Quantcast
Channel: 元・副会長のCinema Days
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2422

「宇宙でいちばんあかるい屋根」

$
0
0
 つまらない映画だ。観る前は青春ものかホームドラマだと思っていたのだが、蓋を開けてみると私の嫌いなファンタジー映画だということが分かり、大いに盛り下がった。もちろん良く出来ていれば文句は無いのだが、中身はこの手の映画にありがちな“ファンタジーであることを言い訳にした、筋書きに不備のあるシャシン”になっている。これでは評価は出来ない。

 千葉県の地方都市に住む14歳の大石つばめは、父親とその再婚相手との間にもうすぐ子供が生まれることに、気を揉んでいた。一方、彼女は近所に住む大学生の浅倉亨が気になって仕方が無い。そんなつばめの唯一くつろげる場所は、通っている書道教室があるビルの屋上だった。ある夜、そこで彼女は“星ばあ”という派手な服装の老婆と出くわす。傍若無人な“星ばあ”に最初は戸惑っていたつばめだが、次第に相手に悩みを打ち明けるようになっていく。やがてつばめは“星ばあ”の望みを叶えるために協力するようになる。



 書道教室が入居しているビルには高齢の女性は住んでいないことが早々に明かされるので、“星ばあ”はスピリチュアルな存在であることが分かるのだが、そのキャラクター設定は随分といい加減だ。実体が無いのに食い意地だけは張っており、屋根の姿形でそこに住んでいる者たちの性格などが分かるなどと、意味不明なことを言う。そもそも、どうして“星ばあ”が赤の他人であるつばめの前に現れたのか不明だ。

 また、“星ばあ”との出会いにより、つばめが人間的成長を遂げるわけでもない。つばめにとって“星ばあ”は単なる話し相手だ。家族と折り合いを付けるのも、亨や学校の仲間との関係が好転するのも、結果としてはつばめが自主的にやったことだ。“星ばあ”の願いは極めて個人的なことで、ラストに彼女の“正体”が明かされても承服しがたい。それに、そのために事故で松葉杖姿の亨を炎天下に長々とつばめと歩かせるのも無茶である。つばめと“生みの母”との再会シーンに至っては、恐ろしく不自然で観ていて居心地が悪い。

 藤井道人の演出は完全に精彩を欠き、映像面での見どころも無し。特に“星ばあ”とつばめが夢の中で空を飛ぶ場面は、安っぽくて脱力した。しかし、これはたぶん野中ともそによる原作がそういうストーリー(おそらく文章だけではサマになっているのだろう)なのかもしれない。要するに、映画化には相応しくないネタなのだ。

 主演の清原果耶は頑張っているが、大人っぽい彼女が中学生役というのは、どうもサマにならない。“星ばあ”に扮する桃井かおりの演技も、想定の範囲内でしかない。伊藤健太郎に吉岡秀隆、坂井真紀、水野美紀、醍醐虎汰朗など脇には悪くない面子を揃えてはいるが、さほど印象に残らず。観なくても良い映画だった。

Viewing all articles
Browse latest Browse all 2422

Trending Articles