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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「いつくしみふかき」

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 面白く観ることが出来た。設定は非凡だし、キャストは力演。荒削りながらも、登場人物の内面に深く食い込んでくる演出。人間の業というものを容赦なく描出している。また、犯罪映画かと思わせて、笑わせる場面やサスペンス仕立てのシークエンスもあり、先の読めない展開で最後まで飽きさせない。また、これが実話を基にしているというのも凄い。

 長野県の山村に広志という風来坊が流れ着いてくる。死に場所を求めていたという彼に住民たちは同情し、村に住まわせることにする。やがて広志は村の女・加代子と一緒になり、子供が生まれようとしたその日、彼は盗みをはたらいていた。怒った住民たちは広志を袋叩きにするが、牧師の源一郎が彼の身柄を預かることにする。



 30年後、広志の息子である進一は母親に甘やかされ、ロクに仕事もしない男になっていた。一方、村を出ていた広志は、ゴロツキの親玉として悪行を重ねていた。そんな時、村で連続空き巣事件が発生。村人たちから濡れ衣を着せられた進一は源一郎の教会に逃げ込む。やがて広志も金に困って教会に転がり込み、ここに互いを親子とは知らない進一と広志との、奇妙な共同生活が始まった。

 中盤に加代子が教会を訪れた時点で早々に進一と広志は相手の正体を知ってしまうが、面白いことに、ここから映画は意外な展開を見せる。教会に帰依したかと思われた広志は、源一郎に協力すると見せかけて、クサい大芝居を打って観る者を大笑いさせる。さらには彼の“舎弟”たちとの一筋縄ではいかない関係性や、進一の広志に対するアンビバレンツな感情、加代子の弟が見せる屈折した思いなど、数々のモチーフが満載ながらドラマは決して空中分解しない。

 これが劇場用長編映画デビューになる大山晃一郎の演出は実に達者だ。キャストでは広志に扮する渡辺いっけいが最高。まさに人間のクズとしか思えない男だが、それでいて息子に対する愛情めいたものは持ち合わせている。そんな複雑なキャラクターを渡辺は見事に演じているが、これが初主演作というのは意外だった。遠山雄に平栗あつみ、塚本高史、金田明夫といった他の面子も良い仕事をしている。かすかな希望を感じさせる幕切れは秀逸で、バックに流れるタテタカコによるエンディング・テーマ曲も効果的だった。

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