正式タイトルは「MMT(現代貨幣理論)とは何か 日本を救う反緊縮理論」。MMT(Modern Monetary Theory)というのは、アメリカの経済学者ステファニー・ケルトンなどが提唱したマクロ経済学理論の一つ。この理論のテキストとしてはラリー・ランダル・レイの「現代貨幣理論入門」が有名だが、あれはページ数が多く価格も高いので、経済評論家の島倉原によるこの解説本で間に合わせることにした次第(笑)。
この理論はポストケインズ派経済学の流れを汲んでいるが、最も大きな特徴は“貨幣”に対する認識だ。主流派経済学では“商品貨幣論”のスタンスを取る。対してMMTは“信用貨幣論”を主張する。
“商品貨幣論”は、貨幣イコール貴金属という旧来型の認識を出発点にしているらしく、貨幣は“モノ”であり、その“モノ”が無いと商取引が出来ないというのが、いわば常識とされている。だからたとえば国の財政政策は税金という貨幣、つまり“モノ”の存在を前提におこなわれるという解釈だ。しかし“信用貨幣論”は貨幣を“モノ”として扱わない。
MMTは“貨幣”というのは信用創造のツールに過ぎないと断定する。その信用の原資が政府の通貨発行権だという話なのだ。よって、主権通貨国における政府の財政政策については、財政規律などは度外視して良いとする。財政出動の障害になるものは(ディマンド・プル型の)インフレーションだけであり、そのインフレは金融政策や増税により抑え込めると論じている。
経済学に疎い私にとって、この“信用貨幣論”が果たして本質を突いているのかどうかは分からない。しかし、現時点での財政健全化とやらを標榜した国の経済政策は完全に間違っており、財源に拘泥せずに積極的に財政出動を実行すべきというのは正解だ。ましてやコロナ禍で経済が落ち込んでいる今、財源がどうのハイパーインフレの懸念がどうのと言っているヒマは無いはずである。
島倉原の解説は複式簿記の知識を持ち合わせてないと読むのが辛い箇所があるが、おおむね平易に書かれている。特に第九章の「民主主義はインフレを制御できるのか」では、我が国においては民主主義の危機は経済マクロの危機に直結していると主張し、説得力がある。MMTに関する解説本はこの書物以外にも複数出ているが、経済問題を考える上でMMTの理論に触れておくことは、決して無駄ではないだろう。