(英題:IDOL)脚本がダメ。そもそも、この設定はいくらでも話を面白くすることが出来る。たとえ経験の浅い脚本家がストーリーを手掛けたとしても、何とかサマになる筋書きを考え付くはずだ。しかし本作は、そんな発展性のあるアウトラインを打ち消すかのような迷走ぶりを示し、まるで“典型的な失敗例”を展観しているかのようだ。せっかく良い役者を揃えているのに、もったいない話である。
韓国の地方都市の市会議員ク・ミョンフェはクリーンなイメージで高支持率を得ており、次の知事選への立候補も取り沙汰されていた。ところがある日、息子のヨハンが飲酒運転した上に人をひき殺してしまう。帰宅したミョンフェが見たものは、ヨハンが運び込んだガレージに横たわる遺体だった。ミョンフェは、死体遺棄の罪を免れるためその遺体を事故現場に戻し、ヨハンをひき逃げ犯として自首させることにして、イメージダウンを最小限にとどめようとする。
被害者は工具店の主人ユ・ジュンシクの長男プナンで、事故はプナンが妻リョナとの新婚旅行の最中に起きたことが判明する。しかし事故を目撃したはずのリョナは行方不明で、ミョンフェは警察がリョナの身柄を確保する前に彼女を探し当てるため、裏社会の探偵を雇う。一方ジュンシクは、担当弁護士との打ち合わせ中に、この事故に不審な点があることに気付く。
加害者の親と被害者の親、そしてそれぞれの社会的地位も違う。この2人が思い掛けず関わり合うようになり、互いに苦悩を抱えつつも激しい心理戦を展開してゆくという設定ならば、映画としてある程度のレベルは約束されたようなものだが、なぜか本作ではそうならない。
まず、リョナは中国出身の不法滞在者で、取り調べを受ければ強制送還される可能性が高かったというモチーフが示されるが、それ自体はまだ問題は無い。ところが実は彼女は妊娠中で、相手の男がプナンではないらしいことや、リョナと一緒に中国からやってきた異父姉がいて、その周囲を怪しい男がうろついていること、さらにはなぜかジュンシクがミョンフェの選挙活動に協力することなど、余計な話や意味不明のエピソードが次々と積み上がってゆく。
プナンは知的障害があり、リョナが彼を夫としたのは滞在の名目を得るためだったのは確かだが、その結婚に関して周囲が黙認するのは奇妙としか言いようがない。中盤を過ぎるとミョンフェが凶行に走ったり、件の謎の男が暗躍したりと、ストーリーはさらに迷走。いつの間にかヨハンはスクリーン上からいなくなり、ジュンシクは訳の分からない奇行に走る。見終われば違和感しか残らない。
シナリオも手掛けたイ・スジンの演出は、行き当たりばったりで求心力を発揮出来ず。ハン・ソッキュにソル・ギョング、チョン・ウヒなどの上手い役者を集めておきながら、ロクな仕事もさせていない。正直言って、観て損したという感じだ。