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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「髪結いの亭主」

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 (原題:LE MARI DE LA COIFFEUSE )90年フランス作品。パトリス・ルコント監督作品としては89年に撮られた「仕立て屋の恋」にクォリティは一歩譲るが、知名度ではこちらの方が上である。日本ではタイトルと同名のことわざがあるので題名の訴求力が高いというのも確かだが、変化球を駆使したピュアな恋物語としての存在価値は大いにある。

 ドーヴィルの海岸沿いに住む少年アントワーヌは、アラブ音楽に自己流の振り付けを施して踊ることと、床屋に行くことが大好きだった。彼は理髪店のシェーファー夫人のことが気に入っており、夕飯の席で“僕は女の床屋さんと結婚する!”と宣言して父親に怒られる始末だ。大人になった彼は、フラリと入った床屋で魅力的な女理髪師マチルドに一目惚れしてしまう。



 いきなり求婚する彼だが、彼女は無視する。それでもめげずに床屋に通い詰める彼だが、三週間目で何とマチルドは彼のプロポーズを受け容れるのだった。彼女と一緒に暮らすことになったアントワーヌは幸せの絶頂で、しばらくは平穏な日々が続いたが、ある雷雨の日に思いがけないことが起きる。

 映画の舞台が基本的に2つしかないことに、まず驚かされる。具体的にはアントワーヌの子供時代と、結婚後の彼が理髪店で訪れる客と繰り広げる寸劇めいた人間模様だ。さらには、2人の住居で映し出されるのは店舗のみ。寝室もキッチンも居間も画面には出てこない。これは純粋に映画をアントワーヌとマチルドの恋模様にフォーカスさせたということだが、どこか現実感の無い、夢の中の話のように思える。

 だが反面、互いに好きな相手のことだけ考えていられたら、どんなに素敵なことかと感じさせるのも事実だ。誰だって、この2人のような生き方を選ぶチャンスはあるのだろう。しかし、社会的なしがらみやら何やらで、それは実現しない。ルコント監督は、この“あり得ない話”をロマンティックに語ることにかけては目覚ましい手腕を発揮する。

 とはいえ、ラストの唐突さはさすがの私もついて行けなかった。もう少し、後味の良い処理にしても良かったのではないか。主演のジャン・ロシュフォールとアンナ・ガリエナは好演で、思わず感情移入してしまう。エドゥアルド・セラのカメラとマイケル・ナイマンの音楽も的確な仕事ぶりだ。

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